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狂ったリリィと子守唄

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この世には思い通りになるものなんてそうそうありやしない。現実は予定調和なんて言葉とは仲がよろしくないようだ。
 例えばシズちゃん。例えばお天気。
 そして俺の困った妹たち。




 臨也は両肩にかかる重みを鬱陶しげに思いながら息をついた。
 彼の妹たちはソファで読書をする臨也を挟んで座っていた。目の前のテレビでDVDを見ていたのにいつの間にか眠ってしまったらしい。ソファは3人で座るにはやや小さい。そこにぎっちりと兄妹で座っているところは傍から見たら微笑ましい景色にも見える。
 やれやれと手に持っていた本を置く。DVDの音声すら気にならないくらい意識は読書に向かっていた。妹たちの様子なんてこれっぽっちも気にしていなかった。
 起こそうか、とクルリの肩に手を伸ばす。しかし、規則正しい寝息は邪魔をするのを躊躇わせた。伸ばした手の行方は、彼女の顔にかかる前髪を払うに留まった。
 時計が側にないものの、2時間のDVDはちょうどエンドロールが始まっている。今日は仕事という仕事もなく――だからこそ無理矢理妹たちを追い出すこともなかった――別にここから立ち上げる必要もさほどない。
「まあ勝手に休みが取れるのは自由業の利点だよね」

 臨也は目を閉じて力を抜く。
 人の体温に触れることはあまりなかった。手の届かないところから眺めているほうが好きだった。それでもどうしようもなく近くにいたのは彼女たちだった。
 愛おしいという気持ちを感じても、それが人間愛なのか肉親の情なのかそれともこの2人だからなのか――それはよくわからない。彼に依存するでもなく、こうやって離れて行くこともない人間というのは両の手の指で足りるほどだった。
 彼女たちがこうやって自分と関わりを持とうとするのが兄妹だからなのか、それとも他に理由があるのかは知らないけれどこうやって寄り掛かられるのは嫌いではない。

 エンドロールの音楽は知っていた。昔ビデオで見た記憶が蘇る。
「DVDも出てるんだ」
 人生はくだらない。そんなことを歌った英語の歌詞。それを聞き流しながら口ずさむ。
 妹たちが目覚めるにはもう少しかかりそうだった。
作品名:狂ったリリィと子守唄 作家名:冬月藍