虎の威を藉る狐
お喋り好きな友人達と談笑するのには、少々埃っぽいが。
ここは私のお気に入りの場所だった。
だから、誰にも話したことはなかった。
会議の間は常に、個性的すぎる方々の怒号もとい意見飛び交う中、席についていなくてはならないのだ。
私に喧騒から逃れる時間が、用意されていてもいいはずだ。
「私は銅像ではありませんので、不躾に見つめないでいただけませんか」
「こんな倉庫みたいな所に篭って、言える立場じゃないある」
悪いのは自分ではないと言わんばかりに、開け放たれた古風なドアにもたれかかっている彼は、大気を舞う繊維のクズを払いのけるように頭を振った。
「『本の虫』ぶりは変わらないあるな」
「そうですね、本はいつでも役に立ちますから」
暇つぶしだったり、参考書だったり、逃避行先だったり。
「『虎の威を藉る狐』」
勝手なことをいってくれるものだ。
一体誰が自分こそが百獣の王だと詐称しているというのか。
しかし、心当たりがないわけでもないので、確認の為に問い直した。
「どちらがですか」
「両方あるね」
随分きっぱりと告げられた言葉に、違和感を覚えた。
「…それは光栄ですね」
「よく言うある」
いつものように私の名を呼ぶ騒音が、近づきつつある。
最早こちらへの興味を失ったように、立ち去る背中を見つめて、ふと呟いた。
「いずれ、貴方も」
誰が騙されて、誰が生き残るかなんて、きっと誰にも分からない。
ただ、もう、この場所は使うことはできないことが、少し残念だった。