ブラックアウト
四木は部屋をその鋭い眼光をもって見回す。その言葉に粟楠の面々はぎょ、と目を丸くしているのが面白くて仕方無かった。そして今度ははっきりいってやる。
「役立たずはゴミ箱に、でしょう。」
四木の物言いはまるでこれは決定だとでもいうようなもので、笑顔さえうかんでいた。
誰の反論もきこえない。四木が折原を飼っていること、そしてそれ以上の噂も幹部たちは聞くところにあった。四木が折原をきりすてた以上、ほかのだれも彼を拾うことはできないのだ。折原がいくら優秀な情報屋であったとしても、それは変わらない。そしてなにより四木が一番それを知っていて、あえてここでその発言をしたのだから、当然の態度ともいえた。
そして会議は沈黙につつまれる。四木の眼だけが黒くにじんだ光を帯びている。
***
「誰かと思ったら…四木さんじゃないですか。」
臨也の声がやけに明るい。そのとき新羅は臨也の隣に座ってコーヒーを飲んでいたが、それを急いで片づけて身支度をする。もうじきここを追い出されるような気がしたからだ。通話は続く。
「ああ、もう電話くれないかと思いましたよ、ええ、はい。え、俺ひとりですか。いえ、岸谷先生もいますよなにぶん重症だったので…。」
臨也はいぶかしげな顔をして沈黙する。その言葉がきれた何秒かたってから臨也はへ、と力ない声を出した。それは失明の宣告をしたときよりも悲痛な声だったかもしれない。新羅にはなんとなく向こうの要件がわかるような気がした。臨也の手が震えて止まらなくなっているのを見て、それは確信に変わる。それでもまだ顔色は悪くないからマシだ。通話がおわったら臨也は壊れるかもしれない。そんな予感がした。臨也の唇がふるえるように動き始めたのを見ると、新羅は臨也に気付かれないようにそっと席をたった。後ろのほうに彼の声をきく。
「…まぁ、そうですよね。当然、だと思います、はい、はい。」
新羅はそっと部屋をでる。そばにいてやることが彼のためだったかもしれないが、彼にとっての四木を埋め合わせることはできそうになかった。それ以上に彼の壊れる姿など一度も見たことのない新羅にとって、それがどんなに恐ろしくて、幻滅するような景色になるのか、想像することも面倒になってしまっていたのだった。