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楽園の解釈

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臨也のいくつもあるケータイの一つがけたたましい音を響かせる。
ちょうど仕事の助手として雇っている女性に紅茶を要求した時だった。

あーまたか、
そういやそろそろかかってくる頃だったかな。
この部屋の主、折原臨也は呑気に鼻歌を歌いながら、しかしその歌を遮るケータイは取らず椅子ごとくるくると回る。そして突如止まった。
「何してるのよ気持ち悪い」という助手に飽きちゃった、と告げると、責め立てるように呼ぶケータイの着信に、たった今気づいたかのように注意を向ける。
紀田正臣、と表示されたそれはチカチカと光っていた。
ピッと音を立てて通話ボタンを押した、その途端

「あんたが帝人を…!帝人をあんなにしたのか!!」

ケータイの着信音と同じかそれ以上の音量で怒号が飛んで来た。うるさいなあ。

「えーやだなぁ人聞きの悪い。
誤解だよ、俺はただ帝人君の背中を押しただけー。鍵を開けただけだよ。」
椅子に座った姿勢を崩し、机に足を乗せて軽快に答えてやる。
(まぁ黒沼青葉がさらに手を出した、っていうのがちょーっとイラってするけどな)
(あれは俺が駒にするためにずっと飼い慣らしてるのに)
と、不快を顔に出して、しかし言葉にはしなかった。

「鍵って…」
混沌。意味のわからない、と言った声がケータイから聞こえてくる。
そんなことも分からないのか、馬鹿だなぁ、と臨也は軽蔑する。
がふと気分が変わった。
そう、愚かな人間に真実を告げてやることも悪くない。
そうだね、俺は人間が好きだから教えてあげる。

「知ってるかい?無知はさぁ、罪なんだよね。本当の姿を知ることが救いなんだよ」

さあこれで彼に意味が伝わっただろうか。答えは否、だろう。どうでもいい。
彼には理解出来まい。だって彼はあんなに近くいてさえ気づかなかったのだから!
いや、隠れていたもの、潜むもの、帝人本人ですら知らなかったものだ、
彼なんかに到底理解出来ないだろう。
そう、自分がこの手で探り出し、見つけてやったのだ。
気分がよくなって言葉を続ける。

「だからさ、いっそ褒めて欲しいくらいだね!やっさしいなぁ俺!あははは!!メシアとでも呼んでくれていいよ?」
「ふざけんな!あんたの…!何がメシアだ、あんたは楽しんでるだけだ!人をはめて、陥れて、それを蚊帳から神様気取りで見つめて…最低だ…!!」

もっともだ。しかしそれが臨也の趣味なのだから仕方ない。
臨也は人間を愛してはいるが、別に人間に自分を理解してもらおうとは思っていない。

「まぁ確かに君の理論も一概に間違ってるとは言えないかもねぇ。
ところでさ、君は“エデンの追放”って話を知ってるかな?蛇にそそのかされて、禁断の実を食べたからエデンって楽園を追放されるって話なんだけど」

正臣は今にも怒りが爆発しそうだった。
のらりくらりと、何だこの男は!しかし違う、乗せられてはいけない。

「聞いたことくらいはあります、よ。
それがなんですか、今の話とは関係ないだろ、俺は帝人の話を…!」
「蛇は救い主なんだよ」
「は…?」
物知りな情報屋はそう言って、
波江が運んで来た紅茶を優雅な手つきで口に運ぶ。セピア色の紅茶の表面が揺らいだ。

「ある宗派じゃあね、救い主は蛇。
人間はエデンなんて牢獄みたいな場所で、服も着ずに裸ですごしてた。
馬鹿みたいにね。賢い蛇はそんな憐れな人間達に本当の事を教えてやったのさ。」
「な、」
「そして人間達は“本当の自分”に気づき、自らエデンを出て行った。
いやぁ、感動的な話だよねぇ!」

そういって笑うと、臨也は2/3ほど残った紅茶のカップをゆらゆらと前後させる。
カップの中の紅茶が渦を巻いてゆく。
ぐるぐる、ぐるぐる。

「……何が言いたいんすか」

正臣は警戒する。
違う、聞いてはいけない。

「だからさぁ、俺は帝人君の救世主ってこと。で、君はさ、」

臨也はパッと、コップから手を離す。
シンプルで高そうなコップは臨也の手を離れ、そのまま誘われるかのように机から床へ落ち衝撃に耐えられずに割れた。
破片が足元に散らばるのも気にせず彼は続ける。

「楽園って名の地獄に縛りつける害悪なんだよ」
作品名:楽園の解釈 作家名:rac