裸足
本日は例年よりも高い気温となるでしょう。
そんな風に言われていた日にこのシチュエーション。
はっきり言って溶けそうというか焼け焦げそう。
「バツ掃除・・・」
俺は誰も居ないプールサイドに立っていた。
金網フェンス越しのグラウンドに現れたのは、
どこから買ってきたのかわからないアイスを片手に涼しげな顔をした準サン。
「水って捨てていいのか?」
「今日はもう授業ないし、週末だから良いんだってサ」
準サンは珍しそうに水かさがどんどん減っていくプール見ている。
アイスの最後のひとかけらを食べつくすと、棒だけを俺に押し付けた。
押し付けないでよ、と一言文句を言おうしたが、
突然フェンスを登り始めた彼に驚いて何も言えなかった。
「ちょ、危ないから!」
「大丈夫、壊れもん入ってないから」
受け取れよ、といって彼はカバンを俺に向かって落とす。
不意打ちだったがしっかりキャッチして、金網のてっぺんまで登った彼を見上げる。
危ない、と思ったのはカバンではなく本人の方だったのだが。
そんな俺の心配をよそに、彼はひらりとした身のこなしでプールサイドに着地した。
「授業中寝てたのか?それとも課題落としたとか?」
「え、いや、えーと」
「じゃあ何の“バツ”だよ」
そう言いながらさっさと靴を脱いで靴下を脱いで、ズボンのすそを上げたりしている。
この人は何しにきたのかと若干混乱していると、プールサイドに座り込んだ。
減ってきた水に足だけつけて無邪気に遊んでいる。
何だか可愛い行動をされた上に普段なかなか見えない生足を見せ付けられて。
かなり、動揺した。
「・・・手伝ってくれんの?」
「ばぁか、邪魔しに来たんだよ」
隣に一緒になって座り込んだ瞬間、水を引っ掛けられる。
つめた!と叫ぶと準サンはさも嬉しそうに俺を指さして笑っていた。
水をかけてきた彼じゃなくて、その笑顔にどきっとした自分に無償に腹が立った。
準サンはそれっきり口を開かずに、ばしゃばしゃと水を蹴り上げる。
きらきら光りながら揺れる水面がこのまま減る事がなかったら、
このままずっと彼の隣に座っていられるのかな、なんて考えていた。
だけどそんなことは所詮ありえなくて、水は大分減ってきた。ころあいを見て底に降りる。
降り立ってみるとちょうど脛くらいの水かさだった。
普段はプールの一番底に触れることはあまりないので、不思議な気持ちだった。
もう水が足に届かなくなって暇になった準サンを振り返って見る。
つまらなそうに足をぶらつかせていたが、俺と目が合うと突然にやっと笑った。
先ほど見せた無邪気な笑顔じゃないそれに、背筋がなんとなく寒くなる。
「お前の“バツ”当ててやろうか?」
「えっ」
「鬼ゴッコで大騒ぎして学長が寄贈した高い花瓶割った馬鹿な一年が居る」
「・・・・・・・・」
「監督にばれたらどうなるんだろうなぁ~、利央?」
あぁ裸足の彼が、今日はやたらと眩しいよ。