七夕のよる
ふたりは以前とても仲のいい恋人同士だったのに、親の猛反対をくらって川の両側に隔てられてしまいました。
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まぁ、俺が織姫で、シズちゃんは彦星、みたいな。不本意極まりないけど、シズちゃんが女の子の格好してるとことか想像できなかったんだろうなぁ。夢だよ。当然のごとく。
俺はね、あの話は嫌いなんだ。誰かの力をかりて乗り越える愛なんてほしくない。そうやって、なかば「さめてくれないかな」て気持ちになってた俺はせっかくだからシズちゃんに「ねぇ、俺のこと愛してる?」て問いかけてみる。向こう岸にとどくような大きな声で叫ぶ。別にこれは俺の夢の中のことなんだから本当のことはわからないのにね。馬鹿だなぁ、俺も大概、て思って俺はどこか別のところにいってしまう。近くにいてくれないシズちゃんなんて嫌い。俺の一番近くにいてくれなきゃいやだ。
さびしい、と思ったんだ。夢の中でも。
***
「で、それからどうなったんだよ。」
シズちゃんはベッドの中であくびをしながら俺の話をきいてる。俺はうん、と軽く相槌を打って、シズちゃんの胸にすりよった。
「シズちゃんならどうする?俺がさびしいとき、どうしてくれるの。」
ああ、今のうざかったかな。ちょっとそう思ったけど、まだベッドをほおりだされる感じではないのでほっとしてシズちゃんの顔をのぞきこんだ。
「ねぇ、もしかして寝てる?」
返事がない。長いまつ毛がとじられて、もう眠っているように見える。
軽くデコピンしても起きないことを確かめるとほおをふくらまして言った。
「シズちゃんは、もしかしたら来てくれないかもしれないけど、」
それ以上の言葉はいわなかった。夜はもう明ける。俺の眠いから、もう眠ろう。今度はシズちゃんがいればいい。今度は一緒にいられる夢だといい。
昨日、たしかに夢の中で君は泳いで俺のところへやってきたから。