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恋文日和

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拝啓 吹雪士郎様



あなたが好きです。













「はぁ~終わったぁ」

チャイムが鳴って先生が教室出たらざわつく周り。そんな中思いきり伸びをして息を吐いた。
あーやっぱり勉強よりも早くサッカーがしたい!
早く放課後にならないかな、なんてうずうずしてたら、いきなり頭をはたかれた。
なんだ、と思って前を見たら教科書や筆箱持って呆れた顔の豪炎寺がいた。

「サッカーは逃げないからそんな顔をするな」
「そんな顔って?」
「サッカーがしたいって顔」
「そんなに出てる?」
「そりゃな」

笑いながら俺も早くサッカーしたいけどな、っていう豪炎寺の手元の教科書見て、あぁそういや次は移動教室だっけ。これが終わってHRが終わったらサッカーだ!
待っててくれる豪炎寺に俺は慌てて机の中から教科書たちを出した。
その時、かさりって音を鳴らして真っ白な封筒が出てきた。
宛先もなければ差出人もない封筒。
中を開ければ一枚の紙が折って入ってる。

「手紙か?」
「うん」
「誰から」
「俺から」

え? とよく分からないって声で豪炎寺が反応するから俺は封筒を持ってペラペラ揺らした。

「これ、俺が書いたラブレター」

上手く笑えた自信はあんまない。











「あ、豪炎寺ちょっと待って」

あの告白のあと、かなり驚いた顔をした豪炎寺は口を開けて、閉じた。
聞きたいことあるのは分かってる。それは本当にラブレターなのか。誰宛なのか、とか。
でも豪炎寺は黙って、そうか。とだけ言って何も聞いて来なかった。本当、いい奴。
遅れるぞ、の言葉に慌てて俺は教科書たち持って立ち上がる。
封筒持って。
急いでたら、階段にゴミ箱を見つけて立ち止まる。
どうした、円堂。と先に歩いていた豪炎寺が振り返る前で俺はゴミ箱の上で一気に封筒を破いた。

「円堂!?」

焦るような豪炎寺の声が聞こえたけど無視して破り続ける。ビリビリ。
パズルみたいにくっつけないと分からないだろうくらいに破いてから俺は深呼吸した。
うん、これでいいんだ。

「行こうか、豪炎寺! 本当に遅刻になんぞ!」
「……いいのか」
「…………いい」

だってあのラブレターは渡すつもりなかった。
書いて破って終わろうと思ったんだ、この恋を。
アイツの困る顔なんて見たくない。
アイツの中には雷門中サッカー部のキャプテン、とだけ残ってたらいい。これでよかったんだ。
さよなら、吹雪士郎を好きになった俺の恋心。













放課後、サッカーしたいのに運悪く掃除当番。
外で落ち葉を掃いてるんだけど掃いても掃いても落ちてくる。
もう、本当いつになったら終わるんだよ。

「円堂くん!」
「あ、秋~! これ掃いても掃いてもおわんねぇよ!」

早くサッカーしたい! って言ったらいつもサッカーだね、円堂くんは。って笑われた。
しょうがないっ! サッカー大好きなんだし。

「でね、円堂くん。キリないからもう終わらせちゃおうかってみんなで言ってたの」
「え!」
「全体的に掃いたし先生ももういいって言ってくれたから」
「じゃもうサッカー出来るな! カバン取ってくる!」

あぁ、円堂くん! なんて秋の声が聞こえた気がしたけど今の俺の頭にはサッカーがしたい! ということしか頭にない!
教室に行ったらもう誰もいなかった。
自分の席まで行って鞄を持ったとき、ガラリって扉が開く音がして振り向くと

「キャプテン、いた」
「ふ、ぶき?」

そこには吹雪が笑って立っていて、俺は持っていた鞄を落としてしまった。
え、吹雪は北海道に帰ったはずで。
吹雪を見たら破いて捨てた封筒を思い出してなんだか体が熱くなるのが分かった。

「来ちゃった」
「来ちゃった、って、唐突だなぁ。まさかいるなんて思ってなかったからビックリした!」

久しぶり吹雪! っていつもの自分、いつもの自分。なんて暗示かけながら吹雪に近付いたとき、吹雪は後ろに回していた手を前に出してきた。
そこにあったのは

「な、んで」

俺がビリビリに破いたはずの手紙。紙に見覚えがある。間違いない。
それがセロハンテープで貼り付けてある。

「どうして、それを……」
「ねぇ、キャプテン。どうして僕があれだけ破られてた紙をわざわざ一枚一枚くっつけたか分かる?」

何で吹雪がそれを持っているか分からなくて聞いたのに質問で返された。
けど、そんなの分かるはずない。
まずゴミ箱に破いて捨てたのなんて吹雪が知ってるわけないし。

「実はね、飛行機が早めに付いちゃって昼にはここに着いてたんだ」
「え」
「で、勝手に教室とか見てたとき豪炎寺くんと話してるキャプテンを見つけたんだ」
「そ、そうなのか」
「そのときに聞こえちゃったんだ『ラブレター』って」

まさか、あのところを聞いてたなんて。なんだか冷や汗がでている気がする。
もしかしてそのまま封筒を破ってるのまで見てたってことか。

「ビックリしちゃった。だってキャプテンって恋とか無縁だと思ってた。気になって仕方なかった。だから破いたラブレターを頑張って貼り付けちゃった」

ふんわり笑う吹雪を見てかぁと顔が熱くなるのが分かる。
吹雪への気持ちは捨てたはずなのに。
……ちょっと待て。
つまり

「ふ、ぶき」
「なに? キャプテン」
「もしかして、読んだ?」

それ、って言ったら、吹雪はきょとんって感じで俺を見て、笑った。
何言ってるの、キャプテン! って。

「読まないはずないよ。ここまでしたんだから」

読まれてしまった。
俺の気持ちを。
どうしよう、どうしよう。
どう誤魔化せばいい!

「ありがとうキャプテン」
「え」

ぐるぐるどうしよう、の言葉が頭を回っていた俺は気付いたら、ぽすんって吹雪にもたれかかっている状態になっていた。
背中には吹雪の腕が回ってる。
ここここれって、抱きしめられ!

「僕もキャプテンが好きだよ」
「え?」

言われた言葉の意味が理解できなくて顔を上げたら至近距離に吹雪の顔。顔が熱くなるのが分かる。
吹雪はちゅって音を鳴らして俺の頬にキスしてきた。

「ちゃんとこういう意味でね」
「う、そ……え、マジ、で?」
「本当だよーキャプテンからラブレター貰えるなんて羨ましくて仕方がなくて誰か知りたいから必死に貼り付けちゃった」

全部貼り付けて自分の名前が出てきたとき嬉しくて泣いちゃうかと思った。そう言って吹雪がまた俺を抱き締めてくるから、俺の方が泣きそうだ、なんて思ってしまった。幸せすぎて。



-END-



吹円が書きやすくて仕方がないです。
作品名:恋文日和 作家名:秋海