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短冊なんていらない

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細くしなやかで、青々とした立派な笹の枝。そこにみんなが思い思いに、短冊や、色鮮やかな紙の飾りをくくりつけていく。あたり一面、楽しそうにはしゃぐ声があふれている。
「七夕祭りなんて、僕、初めて!なんだかわくわくするなぁ〜。」
「まぁ、うちの学園長はお祭り好きだからな。学園のみんなものりのりだし。」
そう、今日は七夕。そこで例のごとく学園長の突然の思いつきで、学園で七夕祭りが開催されることになった。
「それで、久々知くんは短冊になんて願い事を書いたの?」
「俺か?俺は「おいしい豆腐がいっぱい食べられますように」って書いたな。」
「…久々知くんったらそればっかり。」
僕は思わず、くすくすと笑ってしまった。それを見ていた久々知くんの顔が、少し拗ねたようなものになる。
「じゃあ、タカ丸さんはなんて書いたんだよ?」
「…「みんなの髪が綺麗になりますように」って…」
すかさず僕に聞いてきた久々知くんに、僕は少し気恥ずかしさを感じながら返事をかえす。
「なんだ!タカ丸さんこそいつもと同じじゃないですか!」
僕の答えを聞くや否や、久々知くんは反論してきた。この声はどこか楽しそうで、僕もつられて笑いだす。

でも違う。違うんだ。本当にかなえたい願い事はそれじゃない。本当の願いは――…

「…ねぇ、久々知くん。僕、本当は別のこと、短冊に書きたかったんだ。」
「タカ丸さん…?」
僕の沈んだ声色に気づいたのか、久々知くんの視線が一気に僕を気遣うものになる。
「僕ね、本当は「久々知くんとずっと一緒に入れますように」って書きたかった。」
「タカ丸さん…。」
「でも駄目だよねぇ〜!大体僕と久々知くんが付き合ってるのなんて、みんなには内緒なんだし!」
僕のせいで暗いムードになるのが嫌で、笑い飛ばそうとした。でも、もしかしたらうまく笑えてなかったかもしれない。
そう、僕と久々知くんは恋人同士だ。でも、男同士、ましてや色に溺れるのなんてもってのほかである忍者のたまごの僕たちのこの恋は、許されざるものだ。だから僕らは、今までずっと、みんなには内緒で、愛をはぐくんできた。
「!?」
急に僕の指に絡まる誰かの指。そして僕のそばにいるのは久々知くんだけ。これはつまり…
「だ、ダメだよ、久々知くん!手なんてつないだらみんなにばれちゃ…」
「みんな七夕飾りに夢中で、こっち見てませんよ。大丈夫です。」
久々知くんは静かに、でもはっきりとそう言った。
互いの指がさらに深く絡まる。久々知くんの体温が、手のひらから直に伝わる。
「ねぇ、タカ丸さん。僕らのことは、わざわざ短冊なんかに書かなくても、きっと大丈夫ですよ。」
「久々知くん…?」
確信を持っているかのように呟く久々知くんに、僕は思わず聞き返す。
「タカ丸さんは、織姫と彦星の伝説は知ってますね?」
「うん…って、突然どうしたの?」
織姫と彦星の伝説。牛飼いの彦星と、機織りの織姫は、とても仲の良い夫婦だった。だが仲が良すぎるあまり、ついべったりしてしまい、お互いの仕事をさぼるようになった。怒った織姫の父は、二人を天の川を隔てて離れ離れにし、七夕の日にしか会えないようにしてしまった――。
幼い日、母に何度も聞いた物語だ。でも、久々知くんはなんでいきなりその話を…?
「織姫と彦星は、離れ離れになっても、愛をはぐくみ続けてるんです。だから、時がたった今でも、伝説となって語り継がれているんです。」
「久々知くん…?」
僕は久々知くんの言わんとしていることがよくわからず、思わず聞き返してしまう。
「俺たちだってそうです。たとえ堂々とできない忍ぶ恋であっても、お互いを思う気持ちがあれば、きっと大丈夫です。短冊なんかに願いを込めなくても…少なくとも俺は、これからもずっと、タカ丸さんを思い続けていきますよ。」
そう言って顔を伏せた久々知くんは、耳たぶまで赤く染まっていた。
まったく…照れるくらいなら、そんなこと言わなくてもいいのに。でも、彼のそんな不器用なところに、愛おしく思う気持ちが、ますます膨らんでいく。
ちゅっ!相変わらず赤い顔を伏せたままの恋人の耳たぶに、素早く口づける。
「!?た、タカ丸さん!?みんなにばれて…」
「「みんな七夕飾りに夢中で、こっちなんか見てない」でしょ?」
僕はいたずらっぽく笑って、おどけながら、さっき久々知くんが僕に言った言葉を、そのまま彼にかえした。
「〜〜!タカ丸さんにはかなわないなぁ…。」
ますます真っ赤な顔で、頭をぼりぼりとかきつつ、久々知くんは呟く。
そう、短冊に願いを込めなくても大丈夫だ。たとえいつか、織姫と彦星のように、お互いが離れ離れになってしまう時が来ても、お互いを思う気持ちがちゃんとあれば、気持ちまで離れ離れになってしまうことはない。
だって僕も、これからもずっと、久々知くんを思い続けていくのだから――。
                
                   おわり
作品名:短冊なんていらない 作家名:knt