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解けない魔法

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「僕ね、明日からもういないんだ」

告げられた言葉を一瞬理解できなかった。いや、違う。理解することを拒絶していた。
え、とか何とかまぬけな反応をしながら、俺は隣に座るその人の顔を見上げた。
その人は困ったように微笑んでいる。俺は、彼女が大きく感情を揺るがせたところを見たことがない。当然だ、公園でしか会ったことが無かったのだから。
泣いていた俺に、何度拒絶されても、何度でも優しい手を差し出してくれた人。
俺は辛いときとか泣きたくなったときとか、そのうち何もなくても公園に行くようになっていた。その人はほとんど毎回、俺よりも先にそこにいた。一緒に泣いてくれるわけでもない。ただ俺の話を聞いて、時には涙を拭いてくれて、飴をくれて、優しく笑ってくれる人。それだけの存在。たったそれだけなのに、俺にとって彼女といる時間が、次第に無くてはならないものになった。静かで穏やかで優しい時間。それだけで俺は救われた。弟にも教えていない、独り占めの幸福。
なのに。

「明日の朝早くね、遠くの町に引っ越すの」

ごめんね。もっと早くに言うべきだったのに、言えなかった。
俺はもうその人の顔を見ていられなかった。俯いて、何も言えない。まるで初めて会ったあの日みたいだ。きっとあの日と同じように、彼女は笑っていたんだろう。
もう、それを確かめることはできないけど。

「ごめんね」

優しく頭を撫でられる。
もう、やめてほしかった。

「やめろよ」
「ごめんね」
「やめろってば」

魔法にかけられていたみたいだった。これ以上なく優しくて残酷な、魔法を。
魔法はいつか必ず解ける。なら、最初からかけないでいてほしかった。
そうしたらこんな幸福も知らずに、独りで生きていけたのに。

「泣かないで」

回り巡ってあの日に帰って来たのだろうか。何かが壊れたみたいに涙が止まらない。違うのは、続く未来に幸福も希望も無いということだ。優しい手に、何もかも壊されていく。

「泣かないで」

無理な話だ。だって、俺にとって一番大切だったものが、そのもの自体によって無くなるんだ。悲しくて、寂しい。当然じゃないか。
なのに、なんでお前は笑ってるんだよ。

「ごめんね、ごめんね」

きっと優しく笑ってるんだろう。なんで、お前は。

「ごめんね、静雄くん。だいすきだよ」

なんで、最後の最後にそんな一番残酷な魔法をかけていくんだ。
そんな優しい顔で笑うなよ。余計に泣けてきただろうが。
潤んでぼやけた視界の中に、落ちていく何かを見つけたんだ。真っ赤な夕焼けの中、雨なんか降っていなかったのに。


馬鹿みたいな話だ。
結局最後の魔法は解けないまま、今も俺を縛り付ける。
俺を好きだと言ってくれた、たった一人の他人。
そういえばあいつはいつも笑っていたのに、俺は一度も笑わなかった。
だから泣いたのだろうか。もしかして寂しかったのは、俺だけじゃなかったかもしれない。
泣かなければよかった。笑えばよかった。
言えばよかったよ、「俺も大好きだ」って。
そうしたら最後までお前は、笑っていてくれたんだろう?
作品名:解けない魔法 作家名:海斗