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少年群青

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 昔から遠巻きに憧れられたりする事はあったものの、剥き出しにした感情をぶちまけられるのは順平が初めてだった。
 まるで至近距離までナイフを突き出されるような感覚。初めてそれを知った瞬間は勿論恐怖もあったものの、何故だか深い充足感の方が勝っていた。
 順平がこちらに敵意を向けている、はっきりとそう悟ったのは5月の作戦の日。ゆかりと共に3人でモノレールに突入したあの日、順平は作戦の事など忘れてモノレールの車内を駆け抜けていった。
 それから数ヶ月経った今日も順平は、先陣を切ってタルタロスの中を突き進む。先陣、と言っても今日は彼と自分しか探索に出ていないのだけれど。
 そうやって順平の背中を無言で追いながら、片手間で切りも無く襲い掛かってくるシャドウを斬りつける。
 もうこの辺りは一度探索を終えている場所である所為か、多少考え事をしながらでもそこそこやり合えるレベルの敵しかいない。力の尽きたシャドウが霧を纏い、消えてゆく。ふう、と一息つきながら片手剣を空で振るえば、その残像の奥で順平の身体ががくりと揺れた。
 そう、そこそこやり合えるというその基準はあくまで「自分が」というだけの話だ。特に最近は、タルタロスで本格的な探索をする時に順平をパーティには入れていなかった。「リーダー権限」で。ここでの強さは、場数を踏んだ数と比例する。力の差は歴然だった。
 すぐ傍で幾重にも渡るシャドウが蠢くと言うのに、無防備にも順平はタルタロスの床に横たわる。身体中に傷を作り、ぜえぜえと肩で息をするその姿。順平がひどく疲弊しているのは誰の目にも明らかだった。
 倒れたと同時に頭から離れた野球帽を拾い上げ、無造作に順平の顔へと落としてやる。
 もう帽子を拾う力などないのだろう。順平の頬に鍔が軽く刺さった後、帽子は再び床へと転がってしまう。同時に彼は小さく唇を噛み締める、それを察すると無意識にも自身の口端が持ち上がった。それは笑う時と同じ、口のかたち。
「帽子、拾ってあげたのに」
「…うっせーよ…」
「相当疲れてるみたいだけど」
「…関係ねー、まだやれる…」
「順平のこと、回復してあげてもいいんだよ?」
 順平から回復を頼まれた事は、未だに一度もない。
 彼のペルソナは物理系の能力ばかり覚えている所為か、戦闘の衝撃をダイレクトに負う事となる。その上、前線で戦おうとする癖に回復するスキルを持ってないときたら、誰かを頼るしかない筈なのに。
 しかし順平は頑なにこちらからの好意を拒む。他のメンバーと一緒だった場合はその他の誰かに回復を頼むのだから、きっと自分に「助けられる」という事が嫌なのだろう。
 弱さを自分に露呈させたくないのだろう、傍から見れば力の差なんて手に取るように分かるはずなのに。負けず嫌いな彼を挫く為に、敢えてパーティに入れる事をしなかった。タルタロスの1階で指名されなかった時の彼の悔しそうな顔と言ったら――思い出すだけで一発イけそう。
「くそ、涼しい顔しやがって…」
「大人しく回復されればいいのに」
「…ちっと、黙ってろ…」
 力量は歴然なのに、飽きもせずに立ち向かってくる。口答えはするのにも関わらず、彼が起き上がる様子は全くといってない。
 寝転んだままの順平を見下ろして、体側を足先で小突いてやる。再び彼の唇が噛み締められる瞬間に、甘美な刺激がこの身を襲う。
「あのね、こんな所で寝てたら危なっかしくて仕方ないんだよ。分かる?」
 召喚器の銃口をこめかみに宛がえば、順平の身体が大きく震えた。シャドウと戦闘になったわけでもないのに召喚器を構えるという事はつまり、そういう事だ。
 やめろ、という言葉はひどく弱々しい。震え上がる彼の身体の上に片足を乗り上げれば、その身体は化け物に出会ったかのように震え上がっていた。すぐ近くにホンモノの化け物が、山のようにいるというのにだ。
 悔しそうに顔を歪ませるくせに、手出しが出来ないその姿がひどく愛らしいと思えた。それを受けて引金に指先を這わせれば、無意識に頬の筋肉が釣り上がっていく。
 とてつもない高揚感がこの身を襲う、まるでペルソナを初めて召喚した時の様に。デ・ィ・ア・ラ・ハ・ン。震える唇が回復の呪文を唱えれば、順平の身体を柔らかな光が包んだ。
 その数秒間、順平は両腕で顔を押さえたまま動かなかった。本来温かい筈の光が彼の傷を癒しても、彼からはタルタロスの入り口に来た時のような勢いなど消え失せていた。
「ねえ、楽になったでしょう?答えてよ、順平」
 きっと答えないのだろう分かりきった質問を口にしてみれば、案の定順平は避けるように顔を逸らした。
 それでいいよ、大丈夫。彼の身体に乗せたままの片足に力を入れて、二度三度踏み躙ってやる。そこに存在するのは、彼と出会って初めて知った、充足感。
作品名:少年群青 作家名:nana