文字と願いと短冊と
「はぁ?」
そういって差し出されたのは、一枚の紙。
片側に紐が通してあり、長方形に短く切られたものだった。
「今日はちょっとしたお祭りなんだって」
「……」
「それで、この紙に願い事を書いて、木に吊るすんだってさ」
ヴァッシュは小首を傾げながら、再度差し出す。
ウルフウッドは横目で見遣るが、受け取ろうとはしなかった。
「どうしたの?書かない?」
「……ワイは、ええわ」
「えー、折角なんだし、何か書こうよー」
ヤケににこやかな笑顔のヴァッシュ。
ほら、と言いながらペンと一緒に渡してくる。
ウルフウッドは眉間に皺を寄せ、一言。
「絶対に嫌や。またおんどれ五月蝿く言うやろ」
一度、書置きをしたときに、字が汚いとあれこれ言われた。
それ以来、ヴァッシュの前で字を書くのが億劫になっていた。
「そんなぁ、言わないよー……ぷっ」
「おんどれええええええ!!」
「あはは、ごめんごめん。じゃあ、気が向いたら書いてよ」
そう言うと、テーブルにペンと短冊を置いた。
ウルフウッドは、ふん、と鼻をならし、煙草を吹かしながらそ知らぬ顔。
「僕はちょっと吊るしに行ってくるね」
「とっとと行って来い」
追い払うように手を振られ、苦笑いを浮かべながら部屋を出た。
数分後。
「ただいま」
「おぅ……」
広場にある木に短冊を吊るし、部屋まで戻ってくると。
ウルフウッドが窓際で煙草を吹かしていた。
特におかしいところはないはずなのだが、何かちょっとの違和感。
ウルフウッドが何処かそわそわしている気がする。
よく分からず、小首を傾げてしまった。
ウルフウッドは、吸っていた煙草を揉み消すと。
ドア付近で立ち尽くしているヴァッシュを見遣り。
「ちょっと出てくる」
「う、うん、行ってらっしゃい」
一声かけて、部屋から出て行った。
部屋に一人残されたヴァッシュは、何気なしにテーブルへと近づく。
そして、思わず笑みが漏れた。
「……全く。ホント、素直じゃないなぁ」
テーブルに置かれたままの短冊。
それは白紙のままだったが。
其処には、何度も書き直した筆跡が残されていた。