デコレーション・フリル
あれから幼なじみと同じく私服派に転換したらしい。それも、それはそれは気合いの入った。
同性から見たら尚更力の入れ具合が分かるもので、爪も決して抜かりなく艶やかに整えているのが目に映る。はっきり言って後輩に女子として負けているが、今日ある定期試験の為に頑張った成果とすればと誤魔化しても、…駄目か。
高めに調節された声には媚びが混ざり、それに上目遣いも付随する。そんなの異性にでも使えばいいのにと思わずにはいられない。
僕に一体、どうしろと。
自意識過剰女扱いされるのはごめんだ。第一面倒である。あともう少しだけこの吐き気に耐えるだけで、全てが丸く収まる。そう思って自分に言い聞かせていたのだが。
確か校内で見掛けたことがあってさ。多分来良でしょ、同高ってこんな時だけども奇遇だなあ。
穏和な言葉を掛けられた。しかしその直後の行動とのちぐはぐ加減に猛烈な違和感を受ける。
周りに人が居るから証言も取れただろうし同性で同じ高校で、というのを差し引いても押し付けがましい正義者になってみたかっただけだよ。ご立派な理由なんてないの。
冷め切った、聞く者の身を竦ませる声が淡々と告げていく。単純に知らず驚いていたり、見て見ぬフリをしていた乗客が気まずい顔をして野次馬よろしく此方を眺めている。防衛過剰にはならないだろう。犯罪は、特に嫌悪の対象となる行為はそれだけで立場が不利である。手の甲から抜けた、何の変哲もない市販のボールペンが軽い音を立てて電車の床に落ちた。駅員が社会的に抹殺される予定の男を確保し引っ張って行く。
意外にも小刻みに震えていた自らの指先を握り締めて正面を向く。顔を上げる。なるべくかわいいと演出出来ていると、きちんと意識した表情を頑張って作る。リップを塗っている唇でゆっくりと、それこそ染み込ませるように言う。
「お姉様と呼ばせて下さい」
アフターフォローも頼みますよ?こんな気持ち初めてなんです。責任取って下さいますよね、お姉様。
纏わり付いてくる後輩は今日も発見次第に寄って来る。輝かんばかりの、虫を無邪気に潰しそうな笑顔を浮かべて。
だから、僕にどうしろと。
作品名:デコレーション・フリル 作家名:じゃく