サミシイコドモ
エドワードが私のバーにやって来るのはそれまで付き合っていた恋人と別れた時が大半である。恋人、というカテゴリーに当てはめるのは実際のところはかなり微妙な付き合い方だとは思うのだけれど。
「仕方あるまい。君の望みと君の元恋人たちの望みは違いすぎる」
明晰な頭脳、愛らしい容姿。それに加えて素直な性格。エドワードは非常によくモテる。今も、この広くはないバーの店内で、ちらちらと彼に視線を送っている女性は幾人もいるほどだ。だが「恋人」になった女性とは長続きはしない。せいぜい一か月か二か月程度。最長記録ですら三カ月には達していなかったと記憶している。……まあ、私の知っている限りだが。
「オレさ、そんなに変なのかな……」
私の作ったカクテルに口をつけないままぼんやりと見つめている。琥珀色の瞳が揺れる様は、どんなカクテルの色よりも美しい。だがこんな悲しい顔はあまりさせたくないのだが。きっとエドワードは笑顔の方が似合う。笑って欲しい。そう願う。だが、エドワードがこの店に来る時はいつもこんな憂い顔だ。笑顔を見たいと思ったのはいつからだったか。もうわからないくらいかもしれないな。
「キスもしない、肉体関係を結ぶ気もない。ただ傍に居るだけでいい。それを許容できる女性など、まあそうそういないだろうね」
恋人であるのなら欲が出るだろう。手を繋いでいられるだけでいい。ただずっと一緒に居たいだけ。そんな無垢なままではいられない。あれもして欲しいこれもして欲しい。そんな欲望が出て当然だ。女性からしてみれば、ただそばにいるだけで手を出してこないエドワードに不満を募らせていくだろう。けれどエドワードは「恋人」が欲しくてお付き合いとやらをしているわけではないのだ。ただ、寂しいだけ。ずっとそばにいて自分を裏切らない存在が欲しいだけ。それだけなのだ。
「一緒にいてほしいだけなのになオレ。みんな言うんだ最初はそれだけでいいって。なのに……嘘つきだよな」
寂しげに揺れる琥珀色。何よりも美しい宝石のようだ。
「……肉欲を持たず、傍にいるだけで満足できる。そんな人間はごくまれだろうね」
「……だよな」
でもオレはそれだけでいいんだけど。欲しいのは恋人じゃなくて家族なんだ。そう俯いた顔に私はそっと手を伸ばす。
「だから、エドワード」
ここからが正念場。一年でも二年でも。いっそのこと十年でも待ってやる。そんな覚悟はもう決めた。だから今、秘めていた想いを彼に告げる。そう決めた。
「私にしておきたまえよ」
え、と見開かれたその金色に、私の漆黒が映っている。
「ずっとそばにいる。裏切らない。……君の望みを叶えるよ?」
無垢な子供を手に入れる。長期戦は覚悟の上だ。彼が心を開くまで、見返りなど何一つも求めない。キスも身体も魂も。ただ君の寂しさを消すほどの愛情を限りなく君へと贈るだけ。私は彼の傍に居る。