NeverMore8
蝶の髪飾りに光が反射して、虹色に輝いた。
彼女は、にこっと笑うと、ノートに書いてある自分の名前を指差して、
「私、相羽 亜紀(アイバ アキ)。よろしくね、アキくん」
目を開けると、顔を覆っていた影はなく、目の前の少女以外、人の姿も見えない。
「アキくんの嘘つき」
拗ねたような彼女の声に、俺は頭を下げて、
「ごめん、アキちゃん。約束したのに」
「本当にね。アキくんにとっては、新しい友達の方が大事なんでしょ。遠くに離れて、会わない時間が長くなれば、もう友達じゃなくなるんでしょ」
『忘れないでね、アキくん』
彼女の言葉に頷いて、絶対に忘れないと、約束したはずなのに。
「ごめん。でも、また会えた」
「会えても、もう友達じゃない。離れていた間の時間は、取り戻せないから」
アキはもう一度、「新しい友達の方が、大事なんでしょ」と繰り返した。
「・・・俺も、そう思ってた。離れている間に、新しい人間関係が出来上がって、俺の入る隙間なんてない、そう思ってた。でも、アキちゃんに会えて、違うって分かったよ」
手を伸ばして、小さな手を取る。
あの時のまま、変わらない手。
「違うんだよ。入り込むんじゃない。また積み重ねればいい。今度は、アキちゃんも一緒に。そうやって、また新しい関係を作っていけばいいんだ」
俺の言葉に、アキは、にこっと笑った。
「やっと、気がついた」
不意に、アキの輪郭が崩れると、無数の蝶が舞う。
「!?」
驚いて手を振りあげた先に、見覚えのあるカードが降りてきた。
「・・・ペルソナ?」
じりりりりりりりりりり!!!
『・・・が閉まります。無理なご乗車はお止め下さい』
はっと我に返り、慌てて足下の鞄をつかむ。
閉まり掛けた扉の隙間に体を押し込んで、何とか乗り込んだ。
『発車します。ご注意下さい』
ごとりと車体が揺れ、ホームがゆるゆると後ろに流れていく。
行楽客で賑わう車内で、どうにか席を確保すると、鞄から携帯を取り出した。
日付を確認すれば、今日は連休の初日。俺は、八十稲羽駅で降りて、迎えにきているはずの堂島さんと合流する・・・
ふと、鞄の中に、見慣れないものを見つけた。
取り出してみれば、ワンピースを着た女の子の人形。髪に、蝶の髪飾りをつけている。
「アキちゃん」
声に出しても、返事はない。
俺は、携帯を取り出すと、陽介にメールを打った。
『やっぱり、駅まで来れないか?みんなに早く会いたいし、話したいこともあるから』
送ってすぐに、返事が来る。
「早っ。どんな指してんだ、あいつは」
メールを開くと、
『やっぱ、相棒には俺が必要なんだな!天城が旅館の送迎バス出してくれるから、全員連れていくぜ!待ってろよ!』
「ちげーよ」と呟きながら、携帯を閉じた。
膝に乗せた人形を、鞄に戻そうか思案した後、膝の上に乗せる。
離れていた分、新たに積み上げればいい。
関係が変化することは、悪いことばかりじゃない。
「今度は忘れないよ、アキちゃん」
虹色に輝く蝶の羽に、そっと触れた。
終わり
作品名:NeverMore8 作家名:シャオ