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夜遊び厳禁

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0706 pm.

明日は七夕らしい。明日と言ってもあと数時間で日付は変わるのだが。
季節の行事なんていつも忘れていたのだが、今日はどうしても頭から離れなかった。
理由は一つしかない。あいつの授業でそんな話を聞いたからだ。

銀時の授業はめったに脱線することはない。やる気のない彼の授業は、淡々と進んでいく。
今日の一時間目は、黒板の右端にある日付を書くことから始まった。
日付を書き終わった銀時は何の気まぐれか知らないが「明日って七夕じゃん」と言った。
教室のほとんど全員が、そういえばそんな行事もあっただろうかと思ったことだろう。
俺たちのぽかん、とした顔が面白かったのか、銀時はそれから七夕の話を始めたのだ。

何とかっていう星が織姫だとか彦星だとか、意外に詳しく話すものだから、気になった。
いつもは始まって10分も持たずに眠る授業を、久しぶりに長い時間聞いた気がする。
一番後ろの席から教室を見回すと、他のやつらも結構同じような感じだった。
あの死んだような目の銀時がどんな話をするのだろうか、とみんな興味津々の様子だ。
結局、銀時は授業の半分を丸々七夕の話に費やし、色々なことを話していた。

そして俺は今、夜も更けた道を一人で歩いている。
見上げると夜空に雲はそれほど見当たらない。観測日和といえばそうなのかもしれない。
だが天の川らしい星の群れは見当たらなかった。町の明かりに掻き消されているのだろう。
片手には携帯電話、右のポケットにタバコとライターだけ入れてある。
ほとんど手ぶらの状態で何処へ行くのかと言うと、

ぱちん、と携帯を閉じるとちょうど目的地に辿り着いていて、俺はその人物を確認した。
住宅の少ないところにぽつんと、忘れられたようにその公園は佇んでいた。
寂れたちっぽけな公園だった。ただでさえ夜なのだから、物悲しい雰囲気を感じさせる。
公園の主役は子どもだが、昼間でもこんな公園に子どもは来るのだろうかと心配になった。
昼は居るのかもしれないが、夜の公園には無邪気な子どもたちは遊んでいない。
ここに居るのは、かわいくない部類に入る未成年の俺と駄目な大人である銀時だけだった。
へらりとした笑みを浮かべながら、ブランコに座っている銀時が手を振っている。
俺はそれだけで何となくわかってしまった。こいつ多分、酔ってる。

「夜中に先生自らご指名とは、一体何でしょうか?」
「うわはは、高杉の敬語って似合わねぇ~」

この言葉で決定的だ。確実に飲んできた帰りだ。はっきり言ってこれは迷惑極まりない。
何故自分は、メールを一通貰っただけでのこのことやって来てしまったのか。今更後悔する。
帰ってやろうかとも思ったが大きくため息を零して何とか耐えた。
銀時の隣の空いているブランコは使わずに、前にある柵の所に俺は黙って腰掛ける。
酒のせいなのか何なのか、銀時はずっとにっこりと笑ってままだ。
それがどうにも居心地悪くて、落ち着かない。流れる沈黙にすらそわそわする。
なるべく視線を合わせないように、自分のつま先ばかり見つめていた。
だが、やがて静寂に負けて、渋々口を開くことになった。

「・・・仕事もしねぇで何やってんだよ」
「仕事でした~先生方とお付き合いの飲み会ですぅ~」
「真面目にやんねぇとマジでどやされんぞ」
「あは、彦星と織姫になっちゃうね」

一時間目の授業を思い出す。
真面目で働き者だった彦星と織姫。二人は結婚して仕事をしなくなってしまう。
そんな二人を見たどっかのお偉いさんは怒って、二人を引き離してしまったそうだ。
一年に一度しか会えないという究極の遠距離恋愛である。
二人の間には天の川が流れる。この川を越えることができるのは七夕の夜のみだ。
俺は空を見上げた。きらきらと輝く星の数が先ほどよりも多い気がする。
街灯も切れかけている寂れた公園だ。町の明かりから遠いせいだろう。
しばらくぼんやりと見上げながら、俺は銀時が今夜ここに呼び出した理由を知った。

「じゃ、天帝に引き離される前に、夜遊びは終わりにしましょうか」

ブランコから立ち上がると、銀時は当然のように俺に手を差し伸べるのであった。
おそらくこの手に引かれて行く先に、俺の家はないだろうということはわかっている。
それでも俺は知らない振りをしてその手を握りしめるのだった。
何となく、結婚した後の彦星と織姫の気持ちがわかった気がした。
一度好きだと思ってしまえば、もう離れたくないし仕事も学校もどうでもよくなる。
だけど二人は天帝の怒りを買ってしまい、引き離された。

いつか離れ離れになったらどうしよう?
そんなことを思いながら無言で隣の横顔を見つめていると、視線に気付いた銀時と目が合う。
すると途端に悪い笑みを浮かべるので、俺もつられて同じような顔で笑った。
きっと俺たちなら天の川があろうが何があろうが、邪魔なものなんて全てぶっ壊せる。

仕事をしない・勉強をしない・夜遊び上等。そんな俺たちの明日はどっちだ?


0707 am.
作品名:夜遊び厳禁 作家名:しつ