夜の色彩
ぱちんっと消えた灯りに、雨樋を叩く音が妙に大きく響いた。
自室よりも狭いからだろうか、それともこの建物特有の古い造りのせいだろうか。ひどく灯りの届かない室内に、訪れた沈黙が奇妙に重い。ふんわりと唇から零れた青葉の息ばかりが泡のように滲んでいる。
しとしととはいかない雨に、駅前の短冊はもうその役目を終えているだろうか。なんて思うことにはいつでも大した意味がない。
反射的に瞬いて伸ばした指先が触れた体温の正体など一つしかないとわかっていて、指先が辿るように冷えた敷布をひっかいた。
「あれ、暗いところ苦手?」
慣れているのか見えているのか。
まるで何でもないようにすぐそばに腰を下ろした帝人が、タオルケットを引っ張りながらそう言って笑った。ぱちんっと開かれた携帯電話の光だけが青葉を見降ろして、またすぐに暗闇を招き入れる。
夜更けに呼び出されてパソコンの前で顔をつき合わせてそのまま、隣あって寝ることになった流れなんて詳しく思い返しても大した話でもない。いつもの延長上の日常でしかないのだ。どうせ明日も早いのだからと、心配そうに言われた割には二人分の布団を敷くスペースも予備の用意もなくて、ひとつの敷布団に寄り添って眠るなんて羽目になるのばかりは想定外だったのだけれど。
「……いえ別に、そういうわけじゃないですけど」
青葉の部屋はいつでも小さな灯りがついている。
母がいつ帰ってきても良いように、なんてのは言い訳でしかないのだけれど、一時期は居間のソファを寝床にしていたことだってあったのだ。いつだって人工的な灯りで世界は満ちていて、それがあまりにも当たり前なのだ。
それでも全ての灯りを落としたところで、ここまでの色にはならないだろう。
「よく見えますね……」
ごそごそと、帝人の手の先が何をやっているのかなんて、青葉の視界には映らない。
充電器に収まった携帯電話が鈍い光を放って、そのことに思わず安堵めいた息が咽喉の奥底をくすぐった。
「そうかな、田舎の夜はもっと暗いよ」
数歩先はもう真っ暗でさ、こんだけ近付いても顔が見えないんだよね。
すぐ眼の先で笑う声がして、反射的に瞬いた視界に、やわらかな笑みが霞んで落ちてくる。
このひとの眼には自分には見えない暗闇が映っているのだろうか、なんて、想像力はいつだって乏しい。伸ばした指先が少しだけ髪に触れて、額同士を合わせるような距離をほんの少しだけ縮めていく。
「先輩の田舎の話、教えてくださいよ」
ねだるような青葉の言葉に、興味ないくせに、なんて笑う声が雨粒のように吐息のように落ちてきた。