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ながさせつや
ながさせつや
novelistID. 1944
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ドハデに残したよキッスマーク!

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「あれ、ヒジリ君、どうしたのさ。それ」
 通りがかったヒジリの褐色の首筋に、白いガーゼが宛がわれているのを目敏く見つけて、ヒロが声を掛けてみる。ねえ。行き去る腕を取って、上目遣いで見ると、あーとかうーとか、伸ばされた濁音気味の声。
「ケガとかしたの?」
「いや……」
「痛そうだけど」
 背の高い相手に触れる時の癖なのか、少しだけ背伸びをして、ヒロの指先がヒジリの首筋を隠すガーゼに触れる。清潔な白いそれは、彼の肌の色から一際浮いている。
「いやぁ……」
 ばつの悪い顔で、ヒジリは口篭る。なんだろう? ヒロが疑問符をいくつか飛ばしたところで、ヒジリの背後から、空気を切り裂く滑らかな声。
「ドハデに残してよキッスマーク! って、ヒジリがシンギングするからさ、ヤってやったよ、名づけてドハデに残したよキッスマーク!」
 べり。
 白いガーゼがいとも容易く取り上げられて、そこに晒されるのは生々しい傷跡。赤くなった肌と、歯型をした傷口がべったりとそこに残されている。まさにドハデに。
「そりゃお前がそう歌わせてんだろーが」
 右手で自分の首筋に刻まれているキスマーク―――というよりもはや噛み痕―――をさすりながら、ヒジリがカズキを振り向き仰ぐ。
「でもヒジリ、ユー、とてもパッショナブルでグッドなソングだったよ。うん、ミーのアイズに狂いはナッシング!」
 グッ! と親指を立てて、カズキが笑う。ははは、ヒジリとヒロは、その様を笑って受け流すしか術はない。
「にしてもカズキ、べったりいったね。はれんち」
「ったく、ホントだよな。がぷがぷ噛み付いてくれちゃって、女の子ナンパもできねーし、微妙に痛いし、いつ消えるんだよコレ」
 ヒロがあらためてキスマークを検分し、それに同調してヒジリもいくつか文句を言う。カズキは自分がそんなことを言われる謂われなどないと言った素振りで、視線を眼鏡の端へ流し、言う。
「んー? でもべったりっていうのは、こういうのをセイイング」
 え? とヒロとヒジリが目を見開くと、飛び込んできたのはタクトである。ぐい、と力任せにひっぱられて、三人の間に投げ出される。どうやら彼もここを通りかかったようだった。
「な、なんだカズキ、いったい」
 冷静そうな声を少し慌てさせて、きょろりとタクトはあたりを見回す。カズキ、ヒロ、それからヒジリの顔を確かめて、何事だ? とまた呟いた。
「ほらね、ココもアソコも、ドコモカシコも、ね」
「うーわー、ほんとだ。べったべた。やったのもちろんヨウスケだよね、すっごーい」
「ワオ、お堅そうな澄まし顔なのに案外凄いな」
「な? ……なんのことだ」
「タクトの、ココとかソコとかにプリントされちゃってるキスマークの話さ」
 カズキが、長い指先でタクトの白い肌を辿って示す。紅い花びらが何枚も重なるみたいにして、咲き乱れている。タクトの身体中の、いたるところで。
「……なんだそんなことか」
 ふう、やれやれ、といった体で、タクトは三人の顔を見回す。いつものことだろう、という視線で。
「ま、確かにヨウスケとタクトはエブリディエブリタイム、キッスマークだもんねえ。肌、擦り切れないようにウッドをつけたまえ」
「それは流石に言いすぎでしょ、カズキ」
「ヒロ、ユーだってユゥジとメチャイチャイチャだろ?」
「それはガチでしょ」
「何の話か意味わかんねーよ」
「うーん……それは愛? みたいな」
 きょとん、としたヒロの声が響く。ヒジリはさっぱりだぜ、と言いながら、もう一度、傷跡に手のひらを添わせる。じわりと、熟んだ熱を孕むそこに、少しだけ思いを馳せて。