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愛、リバース

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帝人くんが、泣いてしまった。

 それは当然だ。だって俺がそうするように仕向けたのだから。
 狭い部屋の中、彼の堪えているような微かな嗚咽だけが、部屋を支配する。目の前の泣いている彼の姿を、俺は世界から切り取り、目に焼き付けた。
 ここで帝人くんが他の人間みたいに、――そう例えば一週間前に、からかうためだけにもてあそんだ女の子が言ったように「貴方って酷い人!」と俺を罵ったのなら、今すぐに帝人くんを捨てる。執着がなかった嘘だったみたいに、簡単に。
 でも彼はそうしない。ただ苦しそうに泣くばかりだ。顔を歪ませ、歯を食いしばって、手を力強く握って。ただただ、泣いている。
 ああ、俺は今、妙な高揚感に満たされている。
 満足だ、そうだ、これが見たかった。これが得たかった。これが答えだ!
 可哀想だね。本当に可哀想だ。
 俺なんかに愛されたがために、こんな酷い目に合って!徐々に追い詰められて、苦しくて、それでも助けを呼べない。逃げ回る君は本当に単なる草食動物だったよ。
 可哀想だね。本当に可哀想だ。
 けれど、離してなんかやらないよ。だって愛してるんだ。愛してるんだよ、俺が、この俺が、この折原臨也が。平凡で他の人間と何も変わらない、しいて言うなら非日常を求めてるってだけの、小さな存在を、俺はとてつもなく愛してしまったんだ。
 可哀想だね。本当に可哀想だ。
「みかどくん」
 君はいつか、「臨也さんはきっと、簡単に僕を捨てますよね」と言ったけれど、そうじゃないよ。それは人間なら、誰だって簡単に捨てられる。大切にしていたものを、転がして、踏み潰して、今までなかったみたいに笑えるんだよ。
 だから、俺が酷いんじゃない。皆酷いのさ。
「、い、ざやさ、」
 その残酷さで、皆溢れてたらいっそよかったのかもしれないよね。だってそうしたら、きっとこんな醜い姿をさらすことだって、見られることだってなかったのに。
「何で、貴方が、泣いてるんで、すか、」
 気のせいだよ、と呟いたその声は、簡単には溶けてくれず。
 代わりに、嗚咽だけが反響して、消えた。
作品名:愛、リバース 作家名:椎名