自己愛庇護愛
多く「向いていない」と言われ続けた忍者の学校を伊作は無事に卒業し、信じ難いと言われながら忍びの仕事に就いていた。相変わらずに不運で生命が危ぶまれるような大きな怪我を負ったりもして、けれど相変わらずに生き延びる幸運を常に持ち合わせているのだった。生き延びる度に伊作の不具の場所が増え同期が減り、代わりに若い忍びが多く投入されて気付けばかなりの要職に就いていた。生き延びる事も才能だとされたのだけれど、少年時代を知る者は伊作の肩書を聞くと皆目を見張る。酷いな驚きすぎだよと笑う伊作の半身は火傷で爛れていて、何かというと先日捕まった城で機密を喋らなかった際に煮え油を掛けられたのだった。以前に針で突かれて殆ど駄目だった片目はそれで完璧に使えなくなったので塞いでしまった。仙蔵はかわいそうにと言って左目のあった場所を撫でたけれど、あの火傷で命があっただけ幸運だからと伊作は割と平然としている。巻いた包帯が元保健委員長だとは思えない状態なのは右肩が攣れて巻くのが億劫だからだった。
ある戦場での出来事だった。そもそも幾人かの忍たまが紛れ込んで何かをしているのは知っていたけれど特に支障もないので課題か何かだろうと放置していた。懐かしいな、と思う伊作の前に一人の少年が急に現れる。予期しない出現に伊作は驚き、その感覚が随分と久しぶりな事を思いだす。少年は二十年前に伊作も着ていた制服を身に着けていた。伊作の包帯を観察しているようだった。ああ、この子は保健委員だと伊作は思う。少年が何か言おうとして口を開く、その先を伊作はきっと知っていた。
おしまい