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あざれの花

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正直なはなしをしよう。青山学院大学、青山優紀は、立教大学、立原義教が苦手だ。

なにを考えているのか果たしてまったくと言っていいほどに読めず、いったいなにがしたいのかもはっきり言ってよくわからないこの昔馴染が、優紀はもう随分と前から、どうにもこうにも苦手だった。
好きだ嫌いだ云々以前の問題である。
初対面の、まだ義教と優紀が今の自分の身長の腰ほどまでしかなかったころ、つまり随分と幼かった頃合でさえ、義教は今と寸分違わぬほほ笑みを浮かべていたような気がするのだからはっきり言って異常だ。
そんな子どもを、優紀は義教以外に見たこともない。
子どもといういきものは、えてして喜怒哀楽に富んだ、予測の不可能ないきものである筈だ。

比較検討でもしてみるか、と、優紀は腐れ縁の連中を頭のなかに挙げ連ねてみる。
中央大学、谷中理央はどちらかといえば無表情な口かもしれないけれど、意外と静かになににでも熱くなったし、早稲田大学、稲田早太と全貧連だとかいう、優紀からしてみれば自分で自分の首を絞めるかのような組織を立ち上げてからは、また変な方向に明るくなった。
早太とつるみ始めると大方の連中は感化されて明るくなるらしい。慶介しかり。
明治大学、竹治明良と法政大学、政春は言わずもがなだ、いつだってぎゃあぎゃあとじゃれあっては動物のように煩い。喧嘩するほど仲がいい、を地でいっているのかそれとも本気で嫌いあっているのかといえばたぶん前者だろう。
……あの連中と比較すれば、大抵はおとなしいやつになる、と言っても差し支えはない。

以前、国際基督教大学、ICUことリストが義教のほほ笑みを指して、ネンゲミショーだよね、ヨシノリのは、と笑っていたけれど、確かにそのまま固めてポーズを決めて路端にでも置いておけば、そのうち水子地蔵のように義教は花にでも囲まれてしまいそうだった。
しかしながら義教のほほ笑みが、仏のようにに生きとし生けるものすべてを慈しむような上品なものではないのだ、ということにも、優紀はうすうす感づいている。
この話をすると政春などは、考えすぎだろ青山、実際立原いい奴だぜ、相談乗ってくれるし、なんて呑気な台詞を返してくるのだけれど。

「お口に合いませんでしたか」

不意に白昼夢のようにとめどない思考から引き上げられ、優紀は慌てて右手の華奢なデザートスプーンを握り直した。カチャリ、と不自然な金属音が鳴り響く。
義教の甘やかな色をした瞳とかち合い、優紀の背筋を奇妙な緊張が這い上がった。思わず小さく息をついて、優紀は軽く首を振る。

「……別に。こういうの、嫌いじゃない」
「そう言っていただければ」

丁寧に淹れられた薫り高いダージリンに、シンプルなデザインのムース状のチーズケーキ。内側にはひっそりとカシスのコンポートが顔をのぞかせ、まろやかな口当たりのなかにアクセントを添えている。
文句なく優紀の趣味に合致したティータイムだ。

ジャンヌダルクよりはティアドロップ。
マイセンよりもウェッジウッド。
そんな優紀の些細な好みや拘りを、義教は絶対に違えない。
義教のそれは、真綿のようにいつの間にか優紀の首筋に絡み付き、やがてはやわらかく締め上げるに違いない。そう、優紀は思い込みに近い確信を抱いている。

奥底で揺らめく優紀の視線を受け止めた義教が、ふ、と唇にたおやかな笑みを浮かべた。
優紀の苦手な、腹の底がまったく読めない義教の笑顔だった。

「いつか貴方に心の底から、好きだ、と……そう言って貰えるものが見つかればいいと思いますよ」

責めるような響きなど欠片も見あたらない、相も変わらず捕らえどころのないような優しさで義教はそれを口にしたけれど。
その言葉は確かに強く、優紀の胸を内側から打った。
或いは自分の知らない自分でさえをもこの男は知っている。気付いている。それが、我慢できないほどに腹立たしい。

冷えた血液と反対に、上がりきった心拍数を悟られないよう、殊更冷めた目付きをしてみせながら優紀は義教のチョコレートのような双眸を見つめた。
舐めたら極上の甘さを与えてくれそうな色をしているくせに、こいつは、ちっとも
優しくなんてない。

「……お前がもう少しその薄ら笑いをやめて素直になったら、考えてやらないこともないよ」

譲ることを知らないふたりの幕開けは、まだこれから。
作品名:あざれの花 作家名:梵ジョー