晴れ間の君
でも君は僕達の太陽なんだ。
「おーい…って何してるんだ?」
「あ、兵助」
ろ組の教室に行くといつもの様に三人が固まって座っていた。
声をかけると雷蔵が振り向いて俺を手招きし、近付くと何やら竹谷は頬杖をついたままボーっとしている。
三郎はそれをまた頬杖つきながら見ている。
「ハチどうしたの?」
「目開けたまま寝てるんだと」
「はぁ?」
「声がでかいよっ」
「…なんでまたそんなことを」
「昨日一晩毒虫探ししてたんだってさ」
「…はぁ」
だからってなんで目を開けたまま眠れるんだ…。
試しに竹谷の目前に手を翳してみるが反応がない。やはり眠っているのだと解るとため息がでた。
「…せめて目瞑って寝ろよー」
「この阿呆面も可愛いじゃないか」
「口も半開きで涎が垂れそうだ」
苦笑する雷蔵に、仄かに愛おしげに傷んだ髪を摘む三郎。
確かに無防備に開けられた口から覗く赤い舌が、何だか誘っているようでもあって、不意に沈黙が流れた。
「…何考えてる三郎」
「そんな野暮なことを聞くもんじゃないぞ」
「野暮なことを考えてたんだね」
「そういう兵助や雷蔵だって考えてなかった訳じゃないだろう?」
「…」
「まぁ仕方ないよな、こんな阿呆面見てたらな」
全く罪作りな男だと思う。
三人して軽く笑うと竹谷が身じろいだ。
「…ん…ぁ…へーすけ…?」
「おはよ」
「おいハチ、なんで最初が兵助なんだっ」
「…んぁ?何が」
「おはようハチ、目開いたまま寝ていたよ」
「ははっ、俺スゴいな」
「ハチぃ…」
「だから何だよ三郎」
起きた時目の前に居たのは役得だったな。心の中で密かに拳を握る。
鉢屋とやりとりをしながらまだ眠そうにしている竹谷を淡い陽光が差して、窓の外を見上げると雲が切れ間を作って太陽を覗かせていた。
「あ、晴れてきたな」
「飯は?」
「今からだよ」
「じゃあ行こうぜ」
「現金な奴だ」
「それはお前だろ、三郎」
「ニヤけちゃって」
「うるさいぞ兵助」
雲のような憂鬱も君がいれば晴れ間のような。
出来ればその笑顔が自分だけに向いてくれることを祈りつつ。
了