双眸に揺らぐ
流されて堕ちていくのだ。
「ハチ」
「んー?」
「それ面白い?」
「面白いわけあるか、兵助も暇なら教えてくれよ」
「ヤだ、面倒だ」
「…じゃあ茶化すなよ」
外は雨がしとしとと、何かを洗い流すかのように降っている。
静かすぎるそのさざめきに部屋と外界は隔絶されたようで。
まるでこの世界に、俺と竹谷の二人だけ。
「…」
「…」
だからこそ、その瞳は此方に向いてほしい、と。
「……どこ」
「…へ?」
「どこが分かんないのさ」
「教えてくれんのか?」
「このままじゃ埒あかなそうだし。で、何時までなんだ?」
「…明後日」
「明後日?じゃあ明日丸一日使えばいいじゃない」
「だって…」
ばつの悪そうに頬を掻く仕草が、逸らすその視線が、逐一俺の視線を奪って。
奪い尽くされたはずの心に拍車をかける。
「…休みは…兵助と、一緒に…いたいじゃないか…」
「…」
ほらまた、心を奪っていった。
「…ばーか」
「…どうせ馬鹿だよ」
「明日丸一日だって一緒にいて付き合ってやるさ」
「…」
「ハチが望むならな」
「っ、兵助っ」
減らず口には口付けで蓋をして。
君の君のその赤い唇で。
明日とは言わずもがな、何時まででも付き合ってやるさ。
「その代わり今日は俺に付き合ってよ」
「…っ、勝手にしろ」
「勝手にする」
代償は君の心と体で構わないから。
雨垂れのように流されていくのも、君となら悪くはない。
了