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小さいマリアとギルベルト・バイルシュミットのお話

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 俺様の名前は「ドイツ騎士団」。皆からはマリアって呼ばれてる。今より前が、「聖マリア修道会」って名前だったからだ。んでもって、まだ、正式に「国」じゃねぇ。でもいつか絶対、超大国になってやるのが俺様の夢だ。

 まあ、それはさておき、今、「ミンネ」とかいうのがウチの団の中で流行っているのだが、何のことだかさっぱり解らねぇ。訊いてみたが、

「マリア殿には、まだ早いかと」

って、ニヤニヤしながら言ってはぐらかされちまった。ガキ扱いしやがって腹立つぜ。言っとくけど、お前らより、俺様の方が年上なんだからな!!

「マリア殿、どうされました?ご機嫌斜めのようですね?」

城の展望台で不貞腐れてると、俺の部下(そう言えば聞こえがいいが、本当はお目付け役だ)のギルベルトが階段を上がってきた。
「斜めじゃねぇもん」
「口が尖ってますよ」
つんと尖った唇を突かれる。睨むとギルベルトは温和な笑みを浮かべ、俺様の隣に腰を下ろした。ギルベルトは俺たち騎士団領になったポーランドのケーニヒスベルクで生まれた子どもで、ゲルマン民族の血が濃いのか、さらさらの金髪に晴れ渡った空の青みたいな色の目をしている。俺の大好きな兄様が大きくなったらこんなんかなって感じがして、時々、構われるのがくすぐってー。…ってか、こいつのおしめ替えてやったり、ミルク飲ませてやったり、世話焼いてやってたのは俺の方なのに、何で俺が世話、焼かれる側になったんだ?
「セルニックをもらったんですが、マリア殿、食べますか?」
手にしていた包み紙を差し出され、受け取る。包み紙を開くと円形のケーキが半分。腰のナイフで半分に分けて、ギルベルトに一切れ返す。ギルベルトはそれを受け取り、何が嬉しいのかにっこり笑った。
「…何だよ?」
「いえ、マリア殿は優しいですよね」
「俺様はやさしさで出来てんだぜ」
「そうですね」
もしゃもしゃと頬張る。美味い。行儀が悪いと思ったが指まで舐めたところで、ギルベルトの指が伸びて来た。
「ついてますよ」
口の端っこに残っていたケーキの欠片を摘んで口に運ぶ。…あー、何か、兄様にされたみたいですげー、恥ずかしい。ギルベルトはきれいに自分の分を食べ終えると、俺に向き直った。
「ご機嫌は直りましたか?」
「…こんなもので直るか!…ってか、子ども扱いすんな!誰がてめぇのおしめ替えてやったと思ってんだ!!」
「マリア殿です。その節はお世話になりました」
ギルベルトはこんな調子なので、ぷしゅうっと空気が抜けてどうでも良くなってしまう。人が良いと言うか、いつもニコニコしている。ちびの頃は俺のマントを掴んで離さなかった。無理矢理剥がそうものなら、泣き始めるような奴だったのに、今じゃ、騎士団の中でも滅法腕の立つ剣士になり、人望も厚く次期、総長の座に押す者も多い良く出来た奴になっていた。
「…解ってりゃ、いいんだよ…」
怒っていたはずなのに、怒りはどこかにいってしまう。溜息を吐くと、ギルベルトは俺の頭を撫でてきた。
「ヨハンが、あなたを怒らせてしまったと言っていましたが、何かあったんですか?」
撫でられるのは嫌いじゃないが、自分が撫でてきた相手に撫でられるのはどうもこう、なんと言うか、微妙な気分になる。
「…ミンネって、何か解らねぇから、聞いたら俺には早いって言われた」
微妙な気持ちになりつつも、ぽろりと何でも白状してしまうのはコイツが兄様に似てるからだと思う。
「ミンネ、ですか?」
「お前、ミンネって何か知ってるのか?」
顔を上げれば、ギルベルトはどう答えたらいいものか思案している顔をしている。
「知ってるなら、教えろ!」
俺様に知らないことがあるのは許せない。睨むとギルベルトは口を開いた。
「マリア殿には懸想なさっている方はいらっしゃいますか?」
「ケソウ?」
「心密かに想う好きな方はいらっしゃいますか?」
「……いるような、いないような…」
好きな人ならいるけれど、心密かにではない。
「ミンネと言うのは、身分の高い女性や乙女を心密かに想い、崇拝し、奉仕することを言うんですよ」
「…へー」
何だそれ。俺にはまったくの無縁の世界だ。国になるのに精一杯なのに、愛だの、恋だの言ってられる程ヒマじゃねぇ。俺が好きなのは兄様だ。兄様のそばにいる為に俺は国になりたいのだ。
「お前も、ミンネがいんのかよ?」
ギルベルトにそう尋ねれば、ギルベルトは頷いた。
「はい」
この野郎、いつの間にそんな女が出来たんだ。…ってか、それ知ったら他の女どもが泣きそうだな。コイツ、モテるし。
「誰だ?俺にだけ、こっそり、教えろ。パン屋のアイーダか?」
好奇心に尋ねれば、ギルベルトは立ち上がり、マントを払い、俺の前に膝を着いた。それに一瞬、ぽかんとする間もなく、手を取られた。

「私がお慕いしているのは、マリア殿、あなたです。その身のそばにずっと、私を置いてください」

取られた手の甲に口付けられる。びっくりして目を開くとギルベルトはにっこり笑った。
「な、揶揄うな!!」
「揶揄ってなどおりません。私の命はあなたの為にある。御身を守り、あなたに仕えることが私の喜びです」
「……ッ!!」
じっと青い目に見つめられると兄様に見つめられているような気分になる。恥ずかしい。でも、悪い気はしない。慕われるのは嬉しい。
「……そばに置いてやる。ずっと、そばにいろよ。ずっとだぞ?」
「はい」
嬉しそうに微笑んだギルベルトの顔を俺は今でも覚えている。

 そんなことがあって、数ヵ月後、ポーランドとリトアニア連合との戦争、タンネンベルクの戦いで敗走する羽目になった俺を逃がす為にギルベルトは身を呈し、盾となって命を落としてしまった。マリエンブルクの城で変わり果てた姿になったギルベルトを前にして、俺は言葉も出なかった。思い浮かぶのは微笑んだあのときの顔。

「そばにいろって、言っただろ」

もうあの青い瞳が自分を見つめ笑うことは二度とない。俺の世話を焼くこともない。初めて、俺は「悲しい」と言う感情を知った。

「…ずっと、そばに置いてやるよ。ギルベルト。お前の名前、俺がもらうからな」

今まで、人の名は人ではない俺には必要なかった。だから、俺には人の名がない。



 ギルベルト・バイルシュミット



ずっと俺のそばにおいてやるよ。約束したからな。



首に掛けられた鉄十字を外し、交換する。マリアの名の十字をギルベルトへ、ギルベルトの名前が刻まれた十字を俺へ。



 俺にとって、「ギルベルト・バイルシュミット」の名前は特別なのだ。

 歴史に名を残すこともなかった青年の、たったひとつの生きた証が俺の名前なのだから。







おわり

※セルニック ポーランド風ベイクドチーズケーキのこと