酒は飲んでも飲まれるな。
…あぁ、もう、どうしてそんなに可愛いかなぁ?
【酒は飲んでも飲まれるな】
「そうま~…」
「はいはい、ここにいるよ…っとに、どうしてこんなになるまで飲んだんだか…」
顔を真っ赤に染めてお酒の強烈な臭いを放つ佐藤くんは、俺の名を呼びながらスリスリと頬を摺り寄せてくる。
いつもの彼なら、いくらなんでもこんなになるまで飲まなかっただろう。
けど、今日はいつもより轟さんの店長惚気を聞きすぎからか、はたまたいつものストレスが溜まりすぎたのか(どちらにしても轟さん関係だろう)、バイト帰りに飲みに入ったその店で、佐藤くんは次々とお酒の瓶を開けていった。
飲みすぎだよ、と注意しても全然聞かなくて、こんなにべろんべろんになってしまったのだ。
無防備に甘えてくる彼の姿は殺人的に可愛くて、まるで大きな猫がすりすりと擦り寄ってきているかのような錯覚を覚えてしまう。
「全く…あんまり無防備だと、襲っちゃうよ?」
きっと俺以外の誰も、佐藤くんのこの無防備な姿は見たことも想像したことすらないだろう。
そう思うと沸々と優越感が込み上げてきて、思わずぱしゃりと携帯で一枚写メを撮る。
べったべたに俺に甘える、佐藤くんの姿。
翌日恐らく二日酔いで機嫌が悪いであろう彼にコレを見せたら、どんな反応を示すだろう?
…まぁその前に、今日無事に佐藤くんの家まで送ってあげられるかどうかわからないけれど。
薄紅色に染まる柔らかなほっぺをつん、とつついて、思わずにっこりと微笑む。
「…ほら佐藤くん、そろそろ家帰んないと」
「んー…」
…あんまり俺にくっついてると、後で後悔することになるよ?
可愛い君を押し倒そうになるのを堪えるのが、今の俺の精一杯なんだから。
―酒は飲んでも、飲まれるな。
これ、教訓。
作品名:酒は飲んでも飲まれるな。 作家名:響月柚子