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みそさざい
みそさざい
novelistID. 10303
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寂寞は歪む

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自分は傍観者を気取るのが好きだと、尾浜は常々自覚していた。
だから今、この修羅場に居合わせていても楽しみこそすれいたたまれなくなることなど全くと言っていいほど無かった。虫が逃げ出してしまったから行かなければならない。だとか、虫と俺のどっちが大事なんだ。だとか、今まさに行われているしようもない痴話喧嘩を修羅場と喩えるならば尾浜は良い暇つぶしを見つけたと喜んでいた。

「伊賀崎が待ってるぞー」
「孫兵すまん!今行くからな」
「話は終わってないぞ八左ヱ門!勘右衛門も余計なこと言うなよ!」
「委員会の仕事を全うするのは当たり前のこと。自分だって委員会で最上級生なら分かるだろう?」
「…お前の言うことはいちいち正論で腹立たしいな」
「そりゃどうも」
「八左ヱ門…行けよ」
「…戻ってきたらまた話す」

そう言って出て行く竹谷を見ながら、尾浜は喉元で笑みを堪えては手元の課題に取り掛かった。
久々知はといえば苛々と落ち着き無く室内をうろうろと歩き回っている。尾浜は手を休めてそれを眺めているうちにとうとう笑いを堪えきることが出来ずに肩を揺らし始めた。

「勘右衛門?」
「お前たちは飽きなくて良い」
「…その端から眺めるのやめないか、それだから冷静さを取り戻すことも出来るんだけどなあ」
「私なんて端から見たら寂しいあぶれ者だよ、しかしそうでなければ面白くないだろう?」
「あのな…」
「私は常々暇を持て余している、心に余裕があるからな」

尾浜はにやりと意味深げに笑ってみせる。久々知はその、全てを見透かしてしまうような尾浜の目が苦手だった。
友人としてはとても良い奴なのに時折見せるどこか達観した尾浜という人間が、ほんの僅かだが違う人間のような気がして。まるで鉢屋に欺かれているようだと、久々知は思った。

「鉢屋より厄介なのはお前だな」

そして、食堂へ豆腐を貰いに行ってくると言いおいて久々知は部屋を去っていった。
未だ尚止むことのない笑いを尾浜は無理に止めることはなかった。自然と沸き上がってくる笑みに体を寝かせ、そのまま、また笑う。
有意義な暇つぶしだったと思う。何とも悪趣味ではないか、人の色恋沙汰を餌に笑っているのだから。尾浜はそう自嘲的に思うと突如として表情を無くした。
色のない顔が向くのは天井。不規則な木目が面白みをくれるはずもなく、大の字になって無言で見上げていた。

「私は…淋しいだけだ」

不意に呟いた声は、誰にも届くことなく空に消えていった。



作品名:寂寞は歪む 作家名:みそさざい