悪魔の誘惑
相馬は、常の何を考えているかわからない笑顔を向けてくる。
俺はと言うと、先程まで己の口に含んでいたストローにいやでも視線を注ぐ羽目となる。
何処からどう見ても噛み潰された跡が色濃く残っているそれに、自然と眉間に皺が寄っていく。
「…」
「まぁ嘘か本当かはわからないけど。あ、あと、甘えたがりっていう説もあるらしいよ」
癖から見る心理って面白いよね、と、矢張りにこにこしながら頬杖をついていた。
相変わらず何を考えているのかわからないこいつはとんだ曲者だ。
俺はどう反応していいかわからず、何となく持っていた飲みかけのカップを机に置く。
そして、手持無沙汰になった手が、今度は吸い込まれるように己の髪へと導かれる。
「あ、それ、髪を触るのも欲求不満の表れだとか」
ぴっと髪を、基、髪を触る手を指差され、思わずその手を引っ込める。
「…お前、さっきから何が言いたいんだよ」
言葉に多少の怒気が含まれているのは、相馬の言動とヤニ不足が原因だろうか。
そんな俺に怯むことなく、相馬が少しだけ距離を縮めてくる。
「んーと、佐藤君が欲求不満だよねっていう話」
違う?と言って、吐息がかかるかかからないかくらいの距離まで詰め寄ってくる。
間近に迫る相馬は、どこか挑戦的な、そしてどこか妖艶な雰囲気を醸し出している笑みを向けてくる。
そして目を細め、上目遣いに俺を見遣る。
その様を思わず凝視し、喉元がごくりと音を立てた。
それを確認した相馬が、ゆっくりと口を開く。
「お相手いたしましょうか?」
もう二週間程してないもんね、溜まってる?なんて余裕の笑みまで浮かべてやがる。
生憎こちらは、余裕の欠片さえ持ち合わせていないっていうのに。
熱を持ち始めた身体も少し早まる鼓動も全て、全部全部、こいつのせいだ。
「覚悟しろよ」
言葉にするのと同時に相馬の肩をがっと掴み、少し乱暴に地面へと誘う。
そのせいで背に痛みが走ったのか、相馬は少しだけ顔を顰めていた。
「佐藤君の乱暴者ー」
「誰のせいだ誰の」
「俺のせい?」
「言わせんな」
何か言おうとして口を開きかけた相馬に、もう喋るな、とでも言うように荒いキスを一つ送ってやった。