死にかける小さな子供
俺も臨也もたまに授業でも受けようかな、なんてひょっこり教室に現れたりする。ていうか俺は不可抗力な事件さえなけりゃ、基本は真面目に授業を受ける。いかんせん受けられない事件が起こるだけだ。そして、そういいう事件にはノミ蟲が99パーセントかかわっている。俺は本当に憎らしくてしかたない。
だから基本的に俺たち二人は同時に授業を欠席するか、出席するかになっているのだ。
臨也は授業中眠ることはほぼなくて、いつも何か考えているみたいな顔をしている。ときどきにやっとしたりするとき、俺はぞっとして目をそらす。どうせ碌でもないことを思いついたんだろう。これは勘だけど、たぶんあたっている。俺は何度も痛い目にあったからな。
臨也の席はいつも窓際最後列。夏は暑くてとても蒸し暑くて、あいつはしょっちゅう屋上に出かける。それでもたまに教室におりてくるときがあるが、臨也の機嫌は最悪だ。あいつはすぐに顔に出るところがあって、周りに『今は構うな』というオーラを感じさせる。学生はもちろん教師も声をかけない。授業に遅れて入っても誰も責めない。静かに授業が続行されるのをみて、俺はあまりにシュールな気分になる。
臨也は一人なんだなぁ、と思うときがある。そういうとき、自分に同情心みたいなものがわいてくるのを俺はとめられない。それだけならばまだしも、あいつを孤独から救ってやりたいとさえ思うとき、同時に死にたくなる。あいつは誰だ、と何度も問う。
あいつは俺の敵じゃないか、と何度もいいきかせる。
それでもノミ蟲は俺の前で死にかける。俺以外に助けもないという状況で、平気で死にかける。
俺の助けを待っているみたいに。
あいつの額は汗でびっしょり、シャツも、髪も汗でぬれる。ときどき吐く息がはぁ、と息苦しそうにして、眠りから覚めるのを拒否している。
それを俺はじっとみている。尋常じゃない。尋常などではいられない。
日向で死んでいく猛獣を、憐れむのは本来あいつのはずなのだ。
作品名:死にかける小さな子供 作家名:桜香湖