Brilliantly
我ながら情けない声だと思った。どうして彼の為に、こんなに情けない声を上げなければならないのか、と憤慨したい気分だ。でもそれが出来ないのは、結局全てにおいて僕が太一さんに信頼を置いているからなのだろう。
(信頼と愛情って、優しいって部分はとても似ているな)
昔、ゴマモンに泳ぐことは難しいことではない、と延々語られたことがあったっけ。今、それを少しだけ思い出して、その欠片ですらうんざりしてしまうのだから、丈さんって実は凄い人だったのかな、って先輩の聞き上手ぶりに関係なく驚く。
ようやく太一さんが僕の目の前に来て、両手を差し出した。僕はその腕に縋ってやっと水面に体を立てる。
「光子郎、機械ばっかり弄ってるから泳げないんだぜ」
サッカーは器用にやるくせに、なんで駄目なんだ本当に世話が焼けると太一さんは彼の母親そっくりに小言が多い。
「お言葉ですが太一さん、僕は金槌なので出来ればこのような海はお断りしたいと三回は言わせて貰いました」
うんざり顔の僕の前で、太一さんは悪びれた風もなく、そうだっけかー、と頭をわしゃわしゃと掻いた。
彼の周りでだけ、水が綺麗に反射してきらきらとして眩しい。とても美しい光景だった。もし、僕が泳げたら、僕は太一さんと一緒にこのきらきらに紛れられたのだろうか。そうしたら、世界がちょっとだけ楽しかったりしたのかな。彼の所為で、泳げない事実をこんな風に残念に思うのは何だか心外だった。
「本当に酷い人だ、あなた」
笑った。僕は笑った。太一さんのお陰で、見方を、こんなに変えられるなんて。偉大だ、そう思う。
「なんだよ、光子郎ぉ」
「それです、そうやって太一さん、僕の名前呼んでればいいんですよ」
僕が情けなく彼の名を呼ぶのなら、彼もまた同じであるべきだと思うのは、僕の勝手なエゴでしょうか。
水面はどこまでも眩しい。やがて、きらきらは僕らを飲み込む。
作品名:Brilliantly 作家名:しょうこ