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You are loved.

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死んだように生き続けるよりも、眠ったように死ぬ方がどれだけ幸せなんだろう。
世界を愛せない僕よりも、どれくらい、幸せなんだろう。君の温もりを感じない、
僕はどこまでも薄情者だ。


「電車が来ます」
あと少しですから、動かないでそこにいてください。電話の主に僕は少なからず焦っていた。太一さんのことだ。時間に間に合わないと知れば、勝手に行動しかねない。年上を窘めることを苦だとは思わないが、その後の悪びれないところを見るのは気が引く。尻拭いをそうとは思わない自分の悪い性分だ。
人々がそれぞれの行き先を求めて行き来する。人は流れだ。その中で己は今点だった。浮遊する力もなく、雁字搦めで動けなかった。寂しい。記憶だけが緩く涙腺を刺激する。あの声は再生される。懐かしく、僕の名を呼ぶ。気安く話しかけないでください。記憶の中で、優しくなどしないでください。電車は果たして来るのだろうか。こんな僕の前に、やってくるのだろうか。僕は今、寂しくて押し潰されてしまいそうなんです。どうして、あの時飛べたのは、触れられたのは、僕じゃなく太一さんやヤマトさんだったんだ。君に触れることすら叶わないなんて。そんな。世界はとっくに閉まっているんだ。そう言われることが、どんなに酷いことか、君は。

「光子郎っ!」

はっと振り返ると、太一さんが苛々したような、心配したような、ようするにお兄さん面して立っていた。初めて勝手に行動しているのは実は自身も同じことなのだと悟る。優位に考えているのは己の傲慢だった。
「太一さん…」
「お前は!」
強く右手を振りあげられたので、そのまま殴られるのだろうと覚悟した。しかし痛みは待てど来ず、震える右手は既に下ろされている。握りしめた拳に形の良い爪が食い込んでいた。苦々しげに太一さんが顔を背ける。
「何でお前がそんな顔してんだよ…」
この人はこの人なりに罪の意識を感じていたのだろうと思う。でもそれは事実であって僕が君に触れられなかったことにはなんら変わりがないんだ。僕は君に会いたい。僕は君に触れたい。
「太一さん、」
何か言葉を掛けようとして、僕は何の言葉も持ち合わせていない、非力な子供だった。もううんざりしてるんです。世界なんて、なくなってしまえばいいのに。
「ごめんなさい、僕、やっぱり、行かなくちゃ」
踏み出した一歩を、僕は生きる勇気に変えることが出来るだろうか。
「おい、光子郎!?」


死んだように生き続けるよりも、眠ったように死ぬ方がどれだけ幸せなんだろう。
世界を愛せない僕よりも、どれくらい、幸せなんだろう。
君の温もりを感じない、僕は。


(それでも生きる価値があると言えますか、)
作品名:You are loved. 作家名:しょうこ