みみすま
そう思った。
かいたってそりゃさ、なんのたしになるか、ていうかならないんだけど、シズちゃんが見たこともない外国でヴァイオリン作ってるってきいたら俺はもうどうしようもなかったんだ。小説をかきたくなって、そんで今までの勉強とか、その他いろいろのことをほおってでも、俺は描いた。おいていかれたくない。自分が、シズちゃんと対等でありたいと願うから。そう思うとすぐに時間がすぎ、俺はその話をかきあげる。自分らしくもないロマンスをかき上げる。赤面してしまうほどに未熟で、なんのたしにもならない文章を…。
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目覚めると、もう朝日がのぼっていた。ああ、今日も朝はくるのか、ぼんやりとそんなことを思ったあとに、ふと、昨日の記憶がよみがえって笑顔がにじんでくる。昨日は本当に夢のような日だった、と思った。静雄に縁のある人に自分の小説をみてもらい、認めてもらえた。そんなことで自分は泣いてしまうのだ。
会えなかったからじゃない。ずっと、会っていても、会えなくても、静雄のことだけを考えて俺は将来を見据えているのだ、とふと思った。それは一時の恋などでは決してない。
窓の外を見る。まだ朝日は出たばかりで、寒い空気が伝わってくるようだった。
しばらくぽつんとたっている。やりとげてしまったさびしさかもしれない。また、日常をはじめるために覚悟をしてるのかもしれない。
そのとき、声がした方向をむいたのはたぶん、奇跡だ。大げさな言葉だけれど、俺はなぜ、あの時間に外をみたのだろう、と考えるとそれはやっぱり奇跡としか形容できない。