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見上げた灰雲

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天気予報のとおり、午後を待たずに空は泣き出した。
ポツリポツリと降り出した雨は、
次第にその強さを増していった。

「よく降るね。」

栄口がポツリと漏らすと、すぐ横でiPodを
いじっていた水谷が、顔も上げずに答える。

「でも、部活までには晴れるよ。」

「何で?」



空は相変わらず黒い雲が覆っていて、
雨脚は弱まる気配を見せない。



それなのに水谷は、阿部が怒ったんだって。
とか、
田島が早弁したんだって。
という
位の軽い調子で雨が上がると予見する。



時々見せる彼のこんな様子に、栄口は奇妙な感覚に襲われる。

水谷は普段、お調子者で、ふにゃふにゃしていて、
軽くて、優しいだけのようなやつなのに。



何もかも知ってるんじゃないか。
何もかもわかってるんじゃないか。



そんなおかしな感覚に、栄口は襲われる。



「何でそんなことわかるんだよ?」

図らずも切羽詰ったように重ねて問う栄口の声に、
水谷は、漸くお気に入りの曲を見つけたiPodから顔を上げた。



「雲の色が違うでしょ。」



彼の柔らかい声が、土にしみる雨水のように二人きりの部室に響いた。
その優しさとやわらかさに、栄口はぽかんと口を開けてしまう。



まるで水谷じゃないみたいだ。



「雨雲なんて、皆一緒じゃないの?」

出した声は少しかすれていた。



怖かった。



水谷じゃないものが答えるかと思って。

それでも、やわらかく微笑んだその横顔は、まさしく見慣れた彼のもので。



「晴れる間際の雨雲は、少しだけ光るんだ。」



それがこの上ない幸福であるかのように呟く声。
その目は栄口を通り過ぎて、空を見ている。

つられて見上げた灰色雲の色は、
綿菓子が灰をかぶったような色をしていた。



薄く発光する雲を見上げて、栄口は
早く晴れないかな。と、
そればかりを祈った。



















雨の日は別人のようにアンニュイ水谷。
どこかに行ってしまいそうで、栄口はそれが怖い。


作品名:見上げた灰雲 作家名:空太