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Shina(科水でした)
Shina(科水でした)
novelistID. 3543
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そういう理由

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左手で殴られたのは運が良かったと思う
そう、思う
ぐあんぐあん揺れる頭で、門田はそんなことを考えた。

次に目が覚めた時、門田の目に飛び込んできたのは白い天井とくすんだクリーム色のカーテンだった
じんじんと痛む左頬と、保健室独特の臭いで居場所を理解する
門田が起き上がった気配に気付いたのか、ベットを囲うカーテンを空けて顔をのぞかせた保険医にことの経緯を説明された
聞いて、羞恥で頭を抱えたくなったのはいうまでもない
誰が好きな女に抱えられて保健室の世話になりたいと思うものか
情けない
門田は保険医に礼を言って学校を後にした
歩きながら意識を失う前に見た想い人の顔を思い出す

色を失って、今にも泣き出しそうな顔
門田がさせたくない、守りたいとそう思わせた顔だ
悲しませたかったわけじゃない、泣かせたかったわけじゃない
門田は悔しさに唇を噛んだ


そういう理由


週が明けて、月曜
顔を合わせるのは、二日ぶりだ

「平和島、ちょっといいか」
「か、かどた…」
「いいよな?」

登校してすぐ、門田は静緒を捕まえた
返事も聞かずに、その手を捕まえて屋上へ向かう
静緒には悪いが、SHRも1限もサボってもらおう
とりあえず、話がしたかった
振り払われるかと思った手は、門田の心配を余所に繋がれたままだった
ひょっとしたら、頬の傷のせいかもしれない
だとしたら、それは少し卑怯な手だ

空は少し曇っていた

「あのさ、」
「ごめん」

門田が話を切り出す前に、静緒が口を開いた
ちょっと出鼻を挫かれたなと、門田は思う
何について謝っているかなんて言われなくてもわかった
静緒の目線の先には、一昨日殴られた頬がある

「そんなこと気にするな」
「そんなことって、おまえ…!」

そう言って笑うとチリリと引きつったような痛みがあるが、別に気にならなかった
喧嘩なら今までにいくらだってやってきたし、これよりもっとひどい怪我をして放置されたことだってある
どれだけ重かろうが、たったの一発だ
その上、手当までされたのだから上出来だ

「別にこれくらい大したことないから大丈夫だ」
「だっ、て…!」

静緒の顔が歪んだ
ああ、違う
そんな顔させたいわけじゃないんだ

「大したことないわけねぇだろ…!おまえは、俺と違って人間なんだから…っ」

それから、それは聞き捨てならない

「おまえだって、人間だろう」

口から出た声音は想像以上に低い
だが、静緒はそれよりも言われた言葉の方に驚いていた
高校に入学して、散々「化け物」と揶揄された
そう言われるような機会がぐっと増えていた
自分が人間にカテゴライズされるのか、毎日不安だった

「おまえは人間だ。それで、俺が惚れた女だ。好きだよ、平和島。俺はおまえに惚れてる」
「…なん、で、俺なんだ。門田、おまえ良いやつなんだから俺なんかよりもっと良い相手がいるだろ?」

それは、確かな本音だった
門田は良い奴だと静緒は心底思っている
門田の言葉には嘘がない
嘘がなくて、苦しい
俺よりずっと良い相手がいるだろう
本当にそう思うのだ

門田の顔が見れなくて、静緒はとうとう俯いてしまった

「おまえ、絶対泣かないだろ。あんなに泣きそうな顔で喧嘩してるのに」

暫く迷った後、門田はそうこぼした
静緒の喧嘩なら、入学してからのたった2ヶ月間で散々目の当たりにしてきた
教卓が壁にささり、机が割れ、サッカーゴールが空を舞うのを見た
人がおもちゃの用に吹き飛ぶのも
その暴力の中心にいる静緒は全部終わると歯を食いしばるのだ
泣きたいのに泣かない
泣いてはいけないとでも言うように
両の足で地面を踏みしめ、百獣の王のように立つくせにその背中は頼りなく見えて、門田それを守りたいと思ってしまった
思ってしまったのだ

「なあ、平和島。俺はもう、腹を括ってんだよ」
「?」
「俺、おまえのこと男だと思ってた。でも、それでも好きだ、仕方ねぇって散々悩んで認めてるんだ。だから、そんなのは全部いまさらだ」

静緒への好意全部をいまさらだと門田は言う
馬鹿で、なんでこんなお人好しなんだろう

「俺は、きっと、おまえのこと嫌いじゃない」
「それは、期待して良いってことか?」
「わ、わかんねぇんだ…っ」

今の静緒には分からない事が多過ぎた
感情が修まりきらないくて、情報も手に余る
それから、足りないものも

「お、俺が俺に女としての期待がないんだよ…っ!」

人間である自信
化け物では無い自信
そして何より、女である自信
静緒は、自信が女である自信が無かった
普通の女の子たちが持つような、ふわふわきらきらしたそれらを自分が持てるなんて考えもしなかった
恋なんて一生関係ないものだと思っていた
だから、女としての自分に何の期待も抱いていなかったのだ

「俺、ずっとこんなんだし、背だっておまえより高ぇし、教卓投げるし、車に轢かれたって怪我しねぇし、それから…っ制服だって似合ねぇし…っ」
「なんだ、そんなことか」

それもまた、門田は「そんなこと」で済ましてしまった
そうして、静緒の不安をひとつずつ解いて行くようなことを言うのだ

「俺、きっとお前より伸びるよ。体重はもうお前より重いだろ。力は、気にしない。制服もきっと似合うだろ。いま似合わなくてもそのうちな。だから、大丈夫だ。おまえが向き合えるまで待つさ」
「……っ!ば、ばかじゃねぇの!!」
「馬鹿ついでにいっこ良いか」
「なんだよ…」
「名前で呼んで良いか」

門田の問いかけに、静緒はこっくり頷いた。

end