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ワルツ・アンダー・ザ・グレイヴヤード

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 相変わらず葉佩九龍は生傷が絶えない。
 今日も今日とて、遺跡で化人と交戦時に腕に傷を負った葉佩だったが、やはりいつものように「まだクエストが残ってる」と駄々をこねた。そして、そんな葉佩を無理矢理引き摺って皆守が戻ろうとするのもまた、日常茶飯事だ。
 いつもと違ったのは、もうひとりのバディが緋勇という最近赴任してきた教師(割と正体不明)で、彼がそんな皆守を見て鼻で笑ったことだ。
「過保護だな、《微睡みの少年》」
「うるせえよ、冷血爬虫類」
「可愛くない奴だ」
 一寸顔をしかめてから、緋勇は葉佩を手招く。
 既に犬猿と言っていい仲の皆守と違い、緋勇はそれなりに葉佩を可愛がっているようだった。曰く、天然で大雑把な所が義弟だか何だかに似ているらしい。
「葉佩、ちょっとこっち来い。先生が治してやる」
「治すって、ひーちゃんも回復系のスキル持ってんの?」
「先生をつけろと言ってるだろうが。まあ、瑞麗ほどじゃないけどな。ほれ、腕貸せ」
 乱暴に葉佩の手を取ると、緋勇は懐から目盛りのついた尺を取り出した。その尺ごと手を翳すと、葉佩の腕の傷が見る間に引いていく。
「魯班尺って言ってな、射程がひとつ伸びるんだよ。俺の現役時代の必須アイテムだ」
「いいなー便利アイテム。俺にくれる気ない?」
「欲しけりゃ金の延べ棒4トントラックで持って来い」
 無茶を言って切り捨てる緋勇に、葉佩が「ちぇー」と子供のように口を尖らせる。そんな二人の遣り取りを眺めつつアロマをふかしていた皆守は、呆れたように肩を竦めた。
「お前らが仲良いのは、精神年齢が揃ってお子様だからじゃないのか?」
「憎まれ口だけは一丁前な若年寄よりはマシだ」
「えー、甲太郎はそこが可愛いんだよ。ツッコミは冴えてるし理想の相方って感じ」
「蓼喰う虫も好き好きってやつか」
 納得したように、フフンとせせら笑って緋勇は皆守に視線を向けた。皆守も負けじと睨み返す。
 初対面の印象通り、緋勇との相性は最悪だった。こうして一緒に遺跡に潜っているだけで心底うんざりする。
 この次に緋勇と一緒にバディに指名されたら即座に拒否しよう。密かにそう決意を固めていると、
「二人でイチャイチャしてないで、クエストやるよー」
 葉佩の気の抜けた台詞が投げられて、皆守は眉をしかめた。
「誰がイチャイチャだ。誰と誰が」
「さて、本日のクエストはこの扉の前で《時と踊らん》ですが、」
「無視かよ!」
「何と踊るんだと思う?時って何だ?」
 軽くスルーされて地団駄を踏む皆守を他所に、葉佩と緋勇は額をつき合わせて真剣に考え込んでいた。暫くして何かを思いついたように緋勇が口を開く。
「時…、時ねえ…。時を駆ける少女?」
 そこはかとなくレトロな例えに世代の差を感じて皆守は鼻を鳴らした。しかし日本に対する知識が前時代でストップしている葉佩は納得したようにぽんと手を打つ。
「あ、なるほど、時を駆ける少女。ラベンダー?」
「ラベンダー、だろ」
 無意味に自信に満ち溢れつつ緋勇が復唱した。そしてほぼ同時に二人の視線が皆守に向けられる。――正確には、皆守の口の端に銜えられたアロマプロップに。
 嫌な予感がして、皆守は僅かに身をそらした。プロップを慌てて唇から外し、アロマの燃え滓を地面に落とす。しかし身体に染み付いたラベンダーの匂いは元を絶ったくらいで消えたりしない。
 音もなくにじり寄った葉佩の右手ががしっと皆守の肩をわし掴んだ。左手は腰に回される。
「ちょッ、何すんだ!」
「四の五の言わずに手伝え、ミスターラベンダー。クエスト達成のため、つまりは明日のマミーズのカレーのためだ。働かざるもの喰うべからず」
「それは何か違うだろ!っていうか絶対ずれてるぞ、クエストの謎から!」
「はーい、暴れない暴れない。くるっと回るだけだから、いい子にしてねえ」
 身を捩ろうとする皆守を、有無を言わせぬ馬鹿力で押さえ込んで、葉佩はにっこりと笑った。

「Shall we dance?」

 程なくして『クエストを達成しました』というボイスナビと共に辺りが一面輝いた。
 くるくる回る二人を眺めていた緋勇は「ああ時計回りって事か…」と気がついたが、何だか呆然としている皆守が面白かったので素知らぬ振りで真実を秘匿した。