あの子に首ったけ!
財前←謙也
財前くんが某歌姫厨
「して財前くん」
「なんですの謙也さん」
いつになく真剣なまなざしの謙也さん。いつもこんな顔やったらきっと俺よりモテたやろな。いまんとこ、俺のがモテてるらしいけど。白石部長も変なとこ情報通やねんな。いらん情報まで寄こしやがって、あの人はうんちく貧乏や。
「あん、な」
「なんすか、はよしてください」
うっとい、と俺は謙也さんを睨みつける。あんたにかまっとる時間、こっちにはこれっぽっちもないねん。これがタメもしくは下なら確実に相手にしとらんな。話し聞いてもろてるだけありがたくおもいや。このゴンクタレ!そう、このアホな先輩を怒鳴りつけられたらどれだけいいだろうか。俺はこれでも、謙也さんとの関係が壊れるようなことは言わんようにしとる。いくら抑えていても、お前はかわいない、毒舌やといわれるんやけど。ほんま侵害極まりない。この脳みそ空っぽひよこ先輩。
「お前・・・好きなやつおるって、ほんま?」
「ああ、いますよ」
「ま、まじか・・・」
そないに即答せんでも…。謙也さんは大きい体をぐんと小さくさせた。かわいないで、それ。後輩に好きな人がおるくらいで、なに落ちこんでんねん。あれやな、この人高校入って、一回もそないな話ないから、俺にさき越されて悔しいねやろ。頭を垂れて、しゅんとなっとる。犬やな、今の謙也さんはただのアホ犬や。
「なんや、負け犬みたいっすよ」
「・・・だれがやねん」
「そないに落ち込まんでも。正直きもいっすわ」
あ、今のはちょっと謙也さんには効いたかも。目をかっと見開いて、謙也さんはさらに小さくなっとって、机にスローモーションで沈んでいった。
「そうか・・・俺はきもいか・・・」
「そんな羨ましがられたら、さすがに引きますわ」
「羨ましいねんもん」
「あんたにはこれからできるんとちゃいます。好きなひと」
あ、そっち?ってどっちやねん。方向の話か、いやちゃうやろ。
「もうええっすか?俺忙しいんすよ」
「お、おお」
「ほな、」
軽く手を振って、俺は立ち去る、はずやった。
「財前!ちょお待ち!」
「まだすか、あんたしつこいなあ」
「最後!最後やから!」
「・・・はよしてや」
捕まれた腕があつい。そりゃそうや、いま7月やで。この人は子ども体温で、俺の手が冷たいからさらに浮きだって手の熱さが伝わってきた。じとっとした手は大きくてごつごつしとる。
(ああ、あの子の手はもっとふにふにしとって、すべすべしとるんやろな)
「その・・・好きな人って誰やねん」
「ああ、初音ミクっす」
「・・え、この学校の子?」
「いーえ?」
「・・・どんな子?」
「かわいくてねぎと歌がすきで、いつも歌のためにがんばっとって、ツインテールのよく似合う女の子すわ」
「そ、そーか・・・その、・・・みくちゃんによろしく」
みくちゃんて・・・!やばい、この人アホや!
「はい、よう言うときますわ」
「その・・・みくちゃんとは付き合っとったり・・・」
「はあ、あいつは次期に俺の嫁になる予定っすけど」
「よ・・・っ!」
「それじゃ」
謙也さんにしてはおもろかったで。なんや、ミクのことちゃんづけ、て!久々、ちゅうか初聞きやわ。それに、ミクのこと全然知らんから簡単に信じよった。これ、あの人が気付いたときどうするんやろ。いや、でもあながち間違いやないで。俺は実際、ミクのことがすきや。だいすきや。ミクだけしか見えん!首ったけや!まあ、リンもメイコもルカ姉も手離せんけどな。でも一番はミクやで?しかし、レンもかわいいからなあ。家のショタと変わらんかな。
(はよ家帰って、早速新作仕上げな!)
アホスター先輩のせいで、どんどん時間がなくなってまう!あのアホ!
後日、
「白石・・・財前には許婚がおった・・・」
「は、それほんまか」
「おん・・・初音ミクちゃんいうかわいい次期嫁がおろんやと」
「・・・」
「みくちゃんが羨ましいわ」
「・・・」
「なあ、白石」
「・・・お前、ほんまかわいいやっちゃな」