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蜃気楼の檻

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蜃気楼の檻



頬を伝う汗が顎の先からぽたりと畳に落ちた。

ティエリアは知らず乾いた唇を舐める。
「・・・あつい」
呟きながら、しかし更に暑さを求めるように腹に縋る腕の力を強くした。
「馬鹿、これじゃ動けないだろ」
ティエリアの額に張り付いた長い髪を梳きながら、ロックオンが苦笑する。
「動かなくていい。どこにも行くな、ロックオン」
胡坐をかくロックオンの腹に縋り、膝に頭を預けた格好のティエリアは、そのままぺたりとTシャツ越しのロックオンの腹に耳をつけた。
ロックオンの腹から微かに音がする。
木の幹が水を通すような音だ。生き物の音だと感じた。
息を吸えばにおいがした。汗のにおいだが、不思議と不快ではなかった。
「こら、くすぐったいって」
身勝手な振る舞いをする子どもに耐え切れず、ロックオンはティエリアの髪をくしゃくしゃにかき混ぜた。
「っ、止めて、ください。暑いならほら、ここには冷房機がある」
「リモコンが、見当たらない」
「じゃあ扇風機を回せばいい。貴方の真後ろだ」
キョロキョロと辺りを見回していたロックオンだったが、ティエリアが後ろを指差すと、体を捻って扇風機のスイッチを押した。
強い風が後ろからあたり、髪が四方へ散る。
「貴方の顔が見えない」
不満気な声にハイハイと生返事をする。
「ん、じゃあ弱・・・っと。お、これ首回るやつだ」
「首の回らない扇風機なんて今日日見かけませんよ」
それもそうか、と呟きロックオンは胡坐をかいたまま天井を仰いだ。

天井の木目はすでに見飽きていたし、隅の方に女の幽霊みたいな黒い染みがあるなんて話を肴にだべっていたのも随分に前なる。
「する事がないなぁ」
「せっかく休暇をとったのに、その言い草」
「だってティエリア、もうずっとこの部屋から一歩も出ていないような気がするぜ」
「こんな暑い日に外にでるなんて、余程のマゾヒストだ」
ほら見てください、とティエリアが開け放しの窓に視線をやる。
四角く切り取られたそこは、ぎらぎらと太陽が照りつけ、誰かが不精をして一色で塗りたくったようにのっぺりと青かった。
確かに、この青空の下を当て所なく歩くのは億劫かもしれない。見ているだけで汗が噴出しそうだ。

「・・・喉が渇いたから飲み物もってくる」
己の想像力にぐったりしながら、ロックオンは重い腰を上げた。
ティエリアの頭が膝からころりと転げ落ちる。
「レモン水、麦茶、コーラ、あと何があったっけ・・・」
四畳半の居間と冷蔵庫までの距離はほんの数歩だ。
冷蔵庫を開く時は気をつける。でないとうっかり、背に控えるテーブルと冷蔵庫の扉に挟まれてしまうからだ。

「おっと」
慎重に開いたはずが、テーブルが傾いていたのか、冷蔵庫の扉がテーブルの角にガツンとぶつかった。
その衝撃でテーブルの上から落ちそうになったコップを手で押さえる。
手のひら越しにもう随分と生ぬるい水温を感じる。コップには花が生けてあった。
真っ赤で奇妙な形をした花が一輪、この暑さでか萎れている。
「おい、ティエリアこれ・・・」
なんだ?と聞こうとしてティエリアの方へ振り向くと畳の上に転がっているものとばかり思っていた姿がすぐそばに佇んでいた。
「それはそのままでいいんです」
愛おしそうに、寂しそうに、コップの中の生け花を見つめる。
ティエリアは、コップを掴むロックオンの手の上に自分の手の平を這わせて、優しく引き離した。
「ロックオン、何が欲しいんですか。貴方の望むものなら、なんでもある」

「・・・じゃあコーラ」

「食器棚からコップを持ってきて、二つ」
言われてロックオンは飾り気の無い透明なコップを近くの食器棚から取り出した。
テーブルの上に置くと、ティエリアが、なるべく泡を立てないようにそっと注ぐ。
ティエリアの分であろうレモン水ももう片方のコップに注いでしまうと、ロックオンにコーラの入ったコップを手渡した。

「乾杯でもしますか」
「誰の祝いだ?」
「さあ、誰のでも・・・」

ティエリアがコップを傾けたので、ロックオンもそれにならう。
コップのあまり薄くないガラスは、鈍い音を立てて鳴った。
視界の端では温い水に浸かる花も首を傾けた気がした。
作品名:蜃気楼の檻 作家名:うな重