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Present(英米)

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昔、昔といっても10年ぐらい前の話なんだが、俺はアメリカにパジャマを
プレゼントしたことがある。
その頃、俺とアメリカはまだ付き合っていなくて、そういう仲になる要素も
まったくなかった。
そもそも俺がプレゼントをするはめになったのはフランスとの賭けに負けて
冗談でアメリカに着ぐるみパジャマを送ってみようってことになったんだ。
一般的に服を送るって言うのはその服を脱がせたいっていう意味があるのだが
俺とアメリカの間でそういう意味が成立するなんて欠片も思っていなかったから
プレゼントできたんだよな。
フランスもたぶん思っちゃいなかった。
もちろん、アメリカは相当嫌な顔をして(プレゼントの中身を聞いてからは尚更)
一応は受け取った。
その様子を影で見ていたフランスは腹が痛くなるほど笑っていて、あいつ、後でシメると
アメリカにわからないように指を立ててやった。
まあそんなことはどうでもいい。どうでもいいんだよ。
問題なのは、何でその着ぐるみパジャマをアメリカが着ているんだってことだ。
捨てたとばかり思っていた。
あんな嫌そうな顔で「キミって・・・本当に変態だよね」って言ったんだぞ。
普通捨てると思うだろうが。
だが、ピンクのクマ耳には星がついていて、それは俺が手ずから縫ったものだから
忘れることは無い。
間違いなく、アメリカが着ているのは10年前に俺がやったものだ。
枕を抱えて寝息を立てているアメリカを見下ろして、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
正直に言おう。
今、俺はこいつを脱がせたい。
「ん・・・」
俺の邪念がアメリカに届いたのだろうか。
健やかな寝息を立てていたアメリカは眉間に少し皺を寄せて唸った。
そして枕にぐりぐりと顔を押し付けて片方の頬を枕に押しつけたままこちらを向く。
計算して動いているんじゃないかってくらい可愛い寝顔を向けられて
俺は思わず手を差し伸べた。
が、それがいけなかったらしい。
ぷくぷくの頬に触られたアメリカは「むう」と呻いて、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
「・・・・・・?」
まだ状況を把握していないらしい。
ぱちぱちと何度も瞬きをしてアメリカは俺に視線を合わせた。
眠気にとろんと潤んでいたブルーアイが明度を取り戻していく。
はっきりと傍に居るのが俺だと認識した瞬間、奴は大声をあげた。
「―――――!?イギリス!?」
「うっせぇよばかあ!」
悲鳴どころか絶叫に近い声をあげてアメリカは身体を起こす。
あまりの声の大きさに鼓膜が破れるかと俺は思い、抗議をしたが
アメリカはそれどころじゃなかった。
何でキミがここに?今日は来れないって言ったじゃないかと次々に騒ぎ立てる。
あんまりにも騒ぎ立てるから、黙らせようとベッドに膝をついて口を塞ぐと
今度は離れようとぐいぐい胸を押してきた。
だが、後頭部を抑え込んであいつの弱い部分を舐めまわすと徐々に抵抗は
弱いものになっていく。
ぐったりと身体が弛緩してから口を離すとあいつは恨みがましそうに
潤んだ目で睨んできた。
それをさらりと無視して、隣に座り込んだ俺はフードの耳をもふもふと揉む。
あいつにしてはじっとりとこちらを睨んでいたが、やがて諦めたように
俺の胸に顔を預けたのを確認して、ようやく俺は口を開いた。
「確かに今日は来れないはずだったんだが、仕事が思いのほか早く終わったんだよ。
 それでお前を驚かせようと思ってな」
「・・・・・・すごく驚いたよ。キミの悪だくみは成功だね」
「怒るなって。俺、すっげー機嫌いいんだぜ」
「俺は最低だよ。こんな姿見られるなんて・・・」
アメリカは相当怒っているみたいで顔を上げようとしない。
俺は怒っているんだと全身で毛を逆立てている。
ホント、可愛いなこいつと笑いそうになったが堪えた。
別に俺はアメリカを怒らせたいわけじゃないし、今のこの美味しい状況を
逃したいわけじゃない。
腰に手をまわしてぐっと引き寄せるとアメリカは身体を強張らせたがすぐに力を抜いた。
ちくしょう、マジでこいつ可愛すぎる・・・
「捨てたかと思った。着てくれて嬉しい」
抱きしめたまま、フード越しにアメリカに囁く。
俺の台詞にしばらく黙りこんだ後、アメリカはだって、と呟いた。
どうした?と聞き返すと悔しそうにこちらを睨んで口を開く。
「だって・・・キミがくれたものを、俺が捨てられるわけがないじゃないか」
その言葉を聞いて、俺は無言でアメリカを押し倒した。

「ん・・・」
隣で寝ているアメリカがむずがるように唸る。
俺は額に張り付いている前髪をかき上げて、秀でた額に軽く口付けた。
疲労困憊で寝付いているアメリカはそれぐらいじゃ起きない。
シーツを肩が隠れるまで引き上げて俺はアメリカの頬を撫でる。
汗をかいてしっとりとした肌は餅のように滑らかだ。
この肌を好きなようにできる幸せをじっくり噛みしめて、頬を撫で続ける。
アメリカの着ていた着ぐるみパジャマは様々な液体に濡れてしまったため
洗濯機に放り込んできた。
明日の朝イチで洗えば何とかなるだろう。
「う”~」
さすがに触りすぎたのか、アメリカが唸りだしたので苦笑して俺は手を離した。
ここでもう一戦持ち込むのもいいアイデアだが、そうすると翌朝が怖い。
そこまでしてやりたいわけでもなかったし、今日は良いことを聞いたから満足だ。

アメリカが着ていた着ぐるみパジャマ。
あれは俺と付き合い始めてから、俺が絶対にアメリカに来ない日だけ着て
眠っていたらしい。
んで、今日は俺が忙しくてこれないと連絡したからバレないと思って着ていたのだが・・・
連絡も無しに俺が着てしまったため、脱ぐこともできず、俺にバレてしまったらしい。
俺としては可愛いアメリカを堪能できたので大満足だったが
アメリカはだいぶ拗ねていた。
明日の朝、盛大に文句を言われ我儘を言われるかもしれないがそれでもいい。
何故なら、俺はアメリカに宝物を貰ったからだ。
「だって・・・キミがくれたものを、俺が捨てられるわけがないじゃないか」
アメリカは古いものはいらない。新しいものを追い求めていくタイプだと思っていたから
俺のプレゼントしたものなんて、10年前の悪戯でプレゼントしたものなんて
捨てられてしまうだろうと覚悟していたからとても嬉しかった。
たとえそれがアメリカの気まぐれだったとしても俺は構わない。
アメリカが10年もこのパジャマを取っておいてくれて、たまに着てくれたのは
事実なのだから。
「また着てくれよアメリカ」
聞こえていたとしたら相当嫌がるであろう台詞を耳に吹き込んで俺は目を閉じる。
明日の朝はアメリカよりも早く目を覚まさなければと思いながら
ゆるりと忍び寄る眠気に意識を明け渡した。
作品名:Present(英米) 作家名:ぽんたろう