世界の終わりに君と笑おう
髪。
平常通り生気が全く感じられない瞳でそう素っ気なく言い放つと、銀時は少しも日に焼けていないまるで新雪のように白い桂のうなじにそっと触れた。
「さあ、どうしようか」
対する桂は擽ったそうに目を細めてやや身じろいだものの、銀時のしたいようにさせながら不敵に笑う。
「お前がどうしてもと言うなら伸ばしてやらなくもないぞ」
「んだそれ。ヅラのくせに調子乗んなっつーの」
その表情と言葉が気に入らなかったのか、指先で弄んでいた短い黒髪をぎゅっと引っ張る銀時。
さすがにその行為には顔をしかめた桂がお決まりの名前の訂正と共に抗議を唱えるのを軽く受け流し、もう一度、今度は撫でるようにうなじに触れた。
「伸ばせよ」
滑らかできめ細かな肌を上へ辿り、夜色の髪の毛に手を差し込みながら口にした言葉はつい先程と同じものだったけれど、その表情は似ても似つかぬ真剣そのもので、冗談ややる気のなさなど少しも感じさせない。
そんな珍しい銀時の表情を見て驚いたように幾度か目を瞬かせた桂は、ふ、と柔らかく破顔して銀時の頬に手を伸ばした。
「気が向いたらな」
そしてうなじよりは幾分か日に焼けた、それでも十分白い指先で傷だらけの頬を愛おしそうにゆっくり撫でると、それはそれは綺麗に微笑んだ。
“世界の終わりに君と笑おう”
数ヶ月後、中途半端に伸びた桂の髪をからかう銀時の姿が万事屋で見られたという。
作品名:世界の終わりに君と笑おう 作家名:実吉