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惚気話

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人を見た目で判断してはいけない、とはよく言うけど、人は見た目が八割、ともよく言う。
僕は見た目で判断しないようにしているつもりだけど、深く付き合うまではやっぱり見た目で判断してしまう所ってあると思う。
仏頂面とか無愛想だと取っ付き難いよね。逆に笑顔の人は話し掛けやすい。
見た目って外見の美醜とかじゃなくて、表情だと思うんだよね。恐持ての人が仏頂面してたら、そりゃあ見た目で怖がってしまうけど、笑顔だったら取っ付きやすい。


だから僕はなるべく、笑顔を絶やさずにしている。
彼からしてみればなよなよしているとか言われるんだけど、やっぱり笑ってる方がいいよ。
僕がこんな事を考えているのは、僕が笑顔で居るのをなよなよしていると言う仏頂面の彼の事を見ていたからである。
ちらりと隣を見遣った僕の視線の先で彼はいつもの無愛想な仏頂面を浮かべて、キャラバンの窓から外をつまらなそうに眺めていた。


(染岡君って、損してるよなあ)
基本、無愛想で仏頂面。
初めて会った時はやっぱり、ちょっと怖い人、というか、苦手なタイプだな、と思った。豪炎寺君がキャラバンを離脱したばかりだったから新しいフォワード候補への八つ当たりだったんだろうけど、凄く愛想悪かったしね。
でも付き合っていく内に、本当は凄く優しくて、温かい人なんだって分かった。
不器用なだけなんだよね。それに意外とシャイだし。


(うん、やっぱり損してる)
染岡君がほんとは優しいって、染岡君の事を誤解してる人に分かってほしいな。
でも知られたくないような気もする。
僕だけが知ってる秘密、っていうか。勿論雷門サッカーのみんなは染岡君が優しいとか、ほんとは良い人だって分かってるけど。
ぎこちなく頭を撫でてくれる武骨な手が温かくて優しいこととか、ばつが悪そうに恥ずかしそうにしながら触れるだけのキスをしてくれることとか、悲しい時に黙って抱きしめてくれることとか、そういう優しい染岡君が見れるのは僕だけの特権だ。


「……んだよ、さっきからジロジロと人の事見やがって」
じろり、と照れ隠しに一瞥される。
怒ってるような口調は大体いつも照れ隠しだ。たまに本気で怒ってる時もあるけど。
「んー、染岡君って見た目で損してるなあって思って」
「顔が悪いって言いてぇのかお前は」
不満気にぶすっとした表情でそう言われ、笑ってそれを否定する。


「違う違う。ほんとはすっごく優しいのに、いつも仏頂面だから誤解されちゃうでしょ。もっと笑えばいいのにって」
口角を上げてふって小さく笑う時の優しい目とか、おかしそうにげらげら笑う時の楽しそうな表情とか。
染岡君のそういう笑顔が、大好きだから。


「お前みたいに可笑しくもねぇのにずっと笑ってられるか」
「そんな仏頂面してたら怖がられちゃうじゃない」
愛想笑いが格好悪いというか、彼の信条に反してるんだろう。男はこうであるべき、みたいな。頑固だよなあ。
コミュニケーション力が欠けてるっていうか、要領悪いっていうか。不器用なんだよな。


「別にどうでも良い奴に怖がられようが嫌われようが関係ねえ」
「そんな、なるべくなら嫌われたくないじゃないか」
僕は嫌われたくなかった。一人で居る事が嫌だったから、いつでも笑って、愛想よく振る舞ってきた。
僕はおそらく、嫌われた事が無かった。女子からも、男子からも。陰で言われてたりはするのかもしれないけど、表立って嫌われた事は無かった。
だから初めて、僕にあからさまに拒絶を示した染岡君には驚いたし、苦手なタイプだと思ったと同時に、興味を持った。


「俺は俺の好きな奴以外にはどう思われようとどうでもいい」
そっけなく言い捨てる彼の口調には、少し毒があるような気がした。お前とは違って、という言葉が間に含まれている気がする。
俺は好きな奴以外はどうだっていいのに、お前は八方美人しやがって、という意味だろう。
「もしかして、妬いてる?」
「はっ、何でだよ」
染岡君は驚いた表情をして、顔を赤くした。分かりやすいなあ。


「僕がみんなに愛想よくするの、気に食わないみたいだから」
「そんな事俺は言ってねえ」
「さっきの、俺は俺の好きな奴以外にはどう思われようとどうでもいい、なのにお前は俺以外にもへらへら笑顔振り撒きやがって、って意味じゃないの?」
「……………」
図星だったようで、染岡君は口を噤んだ。
染岡君の厭味は分かりやすくてすぐ分かってしまう。


「………悪いかよ。自分の、その……恋人……が、他の女やら男やらに笑ってたらムカつくだろっ」
キャラバン内で周りに沢山人が居るから、少し声を潜めて照れ臭そうに言った。
キャラバン内はがやがやと騒がしく、染岡君の声は隣の僕にだけしか届かない。


「……ふふ」
思わずくすくす笑ってしまう。
「何で笑うんだよ」
染岡君は怒った声音をしながら、照れて赤くなっている。
「ごめん、なんか嬉しくてつい」
独占欲とか、嫉妬とか、ああ愛されてるなあ、って思う。幸せだ。
「実はね、染岡君が愛想悪くて良かったなってちょっと思うんだ。染岡君の笑顔、僕が一人占めしたいもん。同じ事思っててくれたんだなって、なんか、嬉しい」
えへへ、と照れて小さく笑えば、染岡君は僕以上に照れてぶすっとした顔を真っ赤に染めていた。


「僕の前ではもっと笑ってほしいな」
ふにゃりと破顔して笑いかければ、染岡君は暫くばつが悪そうにした後、呆れたようにふっと小さく笑った。
「お前の顔見てると、笑えてくるわ」
染岡君はくつくつ笑って、僕もくすくす笑って、お互いの今この瞬間の笑顔を自分達だけのものにする
一人占めしちゃいたい。一人占めされちゃいたい。
キャラバンは今日もみんなの笑い声が溢れてる。








(惚気話)
―あいつは可愛いから俺以外に笑顔を向けてると惚れられてしまわないか気が気じゃない
―染岡君が無愛想で良かったと思う、だって染岡君が愛想良かったらみんなも好きになっちゃうもん
作品名:惚気話 作家名:水部