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すずき さや
すずき さや
novelistID. 2901
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awkward insight

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awkward insight
佐野さん視点のお話/あとでサイトへ引越し予定

世良がどうやら恋をしてるようだ、と一番最初に気付いたのはおそらく自分だろうと佐野は思う。
そして、彼が恋する相手は世良を意識しすぎているように見受けられた。
それが恋愛感情なのか分からないが、世良が恋愛感情を意識する前からその存在を意識していたことに佐野は感づいていた。
GKは職業病として常にFWの動向を観察し続けるもので、気になり出すと二人の間の微妙な距離と空気を一番後ろで見つめ続けていた。
ある時、この二人はもしかして、両思いかもしれない、と思い始めたころ。世良から突然のカミングアウトされた。


「好きなんっすよ」
突然の言葉にもかかわらず佐野は世良の予想とは裏腹に特に驚きもせず、黙ってうなずいてみせた。
そして、それってどういう意味なの、と聞くのも野暮なようで好きの意味を訊ねなかった。
「あれ?驚かないっすか」
当てが外れたような肩透かしを食らったような面持ちで世良は驚いて佐野を見上げた。佐野は黙って肩をすくめて苦笑した。
「そうっすか。バレバレっすよね」
世良は頭をかきながら照れ笑いを浮かべて「好きなんです」と、何度も繰り返しつぶやいた。佐野は照れた様子の世良を見て可愛いなと思った。
「ま、頑張りなよ」
世良は佐野の言葉に頬を赤く染めて「あざっす」と礼を言って笑った。
そんな様子の世良を見ていたことがつい昨日のことのように思い出せる。それに好きなんて言う前から、世良が恋をしていることくらい知っていた。そして、向こうも同じくらいお前のことが好きだと言うことも気付いていた。
教えてやるほど親切ではないけれど。



短いオフが明けるとすぐに真夏のキャンプが始まる。その初日に一緒に姿を現した二人を見て変わった、と佐野はすぐに気付いた。
以前は世良の方から懸命に恋焦がれる堺の後を追っていた。しかし、今は堺の方から世良に近づくと当たり前のように並んでいる。
佐野はオフ前とは二人の間の空気が違っていることに気付く。
これはゴールを決めたな、と一人心の中で納得するとふらりと隣に立った緑川から意味ありげな視線を受けた。
「どう思う?」
突然の言葉に何をどう思うのか、と訝しげに見つめると緑川の横顔は先ほどまで自分が見つめていた二人へ視線を送っていた。
「ああ」
佐野は思わずため息をつく。
「世良のやつが多分、ゴールを決めましたね」
「あ、やっぱりそうなの?」
緑川は驚いたような顔をして目を瞬いた。今さら驚くも何もあなただって気付いているではないですか、と佐野は言おうかと思ったが面倒くさくなり緑川の顔をしげしげと見つめるだけにした。
緑川が瞬きをする度に長いまつげがバサバサ揺れている、と佐野は特に感動するでもなくただ眺めていた。このバサバサと揺れるまつげから涼風でも来ないかと期待したくなるがさすがに無理だ。無風の競技場に立っているだけでじりじりと真夏の太陽の日差しを受け佐野のこめかみには汗が伝い降りて行った。
真夏の夢の島は、真冬と違い暑い。いや、熱い。サウナの中にいるようなような熱気を感じる。
そして数日間、真昼の炎天下の中でサッカーをするのかと思うだけでげんなりする。
普通のチームならば避暑地で英気を養いながらリーグ後半に向けて練習をするのだろう。
だが、財政事情の悪いチームなのだから予算の都合上仕方がない、と佐野は諦めの思いを込めて無言で再びため息をついた。
視界の隅で自分が思っていたことを代弁するかのように大声でわめく黒田の姿を見て元気が良いな、感心しているといつの間にか緑川は堀田の隣で何事か話しこんでいた。
ひそひそと話しあう背中を何気なく見ていると急に堀田は振り返りこちらにやって来た。隣に立つなり「本当?」と、訊ねて来た。
何が本当なのか。佐野が困惑していると堀田はさらに本当なのか、と声をひそめて念を押してきた。
「ゴールキーパーの勘」
佐野は答えに困りぽつりと一言告げる。
「そうかぁ」
相手はその答えに納得したようにうなずき、感慨深げに大きくうなずくと遠い目をしてつぶやいた。
「やっぱりそうか」
堀田があまりにもしみじみとそう言うので佐野は思わず表情を探るように見つめる。
堀田は佐野の視線に気付いて誤魔化すように咳払いをした。

これは瞬く間にチーム内に広まるな、と佐野は思って緑川に向けて迂闊な一言を言ってしまった、と後悔した。
もしかすると世良は嬉しそうに報告してくるかも知れない。その前にチーム全体に波紋のように広がるだろう。
佐野は相手の反応を考えると気が重かった。自分が広めたわけではなく自分が変わったと言うそれだけのことだと言うのに不機嫌そうな顔で余計なことを言って、ときつい口調で責められるような気がした。
暑くてしんどいだろうキャンプと、暑苦しくてかなわないフォワードに翻弄されていることを思うと大きなため息が自然とこぼれた。
「はあ……面倒だなぁ」
堀田は佐野のつぶやきを耳にして不思議そうな表情を浮かべる。
「他人事みたいな顔してるけどチームのことだから」
「ああ、そうか」
佐野の言葉に大きく頷いた堀田は「そうだったなぁ」と、暢気な声を上げた。
堀田さんは、ちょっとガミさんに似て来た、と佐野は気付かれないようにため息をついた。
見上げると雲ひとつない晴れた空が小さいことで悩むなよ、と言っているように思えて来た。
疲れる前から疲れている、と佐野は疲労感を感じながら、何度着いたか分からないため息をつきながらこめかみから流れる汗をぬぐった。
作品名:awkward insight 作家名:すずき さや