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萬屋顛末記 其の壱

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江戸の町の食べ物屋や店などが立ち並ぶ町屋の片隅にそれはあった。

 看板の出ていないそこは傍を通る人間が皆、なんの店なのだろうかと首を傾げる。

 まぁその建物の入口には木の板に『萬ゴト承リマス』と書かれたものが風に揺らされているのを見て、ここが『萬屋(なんでも屋)』であることを悟るのだが。

 そしてその建物の中でひたすら帳簿とにらみ合いをしている少年がいた。

 あまり行儀の良いことではないのだが、筆のもち手の先を咥え、ずっと帳簿を見つめたまま唸っているのだ。

 しばらくその状態で帳簿との睨み合いを続けていたが、咥えていた筆を不御机の上に置くと盛大な溜息を吐いた。



「駄目だ……どう見ても稼ぎが足りない……。

 赤ではないけど……なんでこんなに稼ぎが少ないんだろ……」



 収支を記された帳簿を見て少年はぼそりと呟いてから天井を仰ぐ。

 帝人はここで3人の仲間たちと萬屋を営んでいる。

 萬屋と言うだけあってやることは様々で。

 失せ物、人探し、店の手伝いや、ツケの取り立ての代行をしたり、ご禁制のブツ以外ならばどんなものでも運ぶという評判もあるので、運び業なども行っている。

 それなりに仕事はあるはずなのに、収支の計算をすると収入の割合が少ないのだ。

 まぁ原因はわかっているんだけどと帝人は小さく呟いてからうんと大きく伸びをした。

 そう、原因はわかっているのだ。

 まず、この萬屋を営んでいる仲間のうちの一人に静雄という男がいるのだが、彼は普通の人間では絶対不可能なものを持ち上げてしまうほどの怪力の持ち主で、その彼が目の敵にしているこの江戸の町にいる情報屋、臨也を見る度に辺りのものを使って場所を問わず暴れてしまうので、その修繕費に萬屋の収入の一部が使われてしまうことが一つ。

 そして、やはり仲間の一人の正臣は依頼人が女性だと報酬をもらわず、代わりに逢い引きの約束を取り付けて帰ってきてしまうので、それが一つ。

 その他の此処萬屋で仕事をしてくれている二人はしっかりと仕事をこなしてくれているので、やはり問題はこの二人で。



「しっかりと仕事をこなしてくれないと、僕は実家に帰るって一度脅した方がいいのかなぁ……」



 実際にこのままの状態だと江戸に置いておけないって引き戻されるだろうしなぁと小さく呟いてから帝人は自分の頭を掻いた。

 帝人の実家はかなり昔からある由緒正しいお家柄であり、帝人はその家の中でもここ数十年の中では一番と言われている力の持ち主のため、次代跡取りに指名されているのだが、次代跡取りが世間知らずではいざという時に役に立たないだろうという意見が出たため、江戸の町で世間勉強をするようにとここに住む場所を用意してくれたのだ。

 帝人はその用意してくれた場所でただ住むのは面白くないと江戸の町で知り合った静雄と偶然会えた昔なじみの正臣、静雄の昔なじみのとむ、そしてやはりここに来てから出会った首なし尼こと『セルティ・ストゥルルソン』と共に『萬屋』を始めたのだが、その商売が上手く行ってないと実家の人間に知られてしまったら、世間勉強に出すのではなかったとそのまま二度と家から出してもらえなくなるだろう。

 まぁどんなに優秀だと言われていた帝人でもせっかく始めた『萬屋』の中に問題を抱えたものが二人もいたなどと始めた頃にわかるわけがないのだが。



「まぁ……とりあえずなんとかするしかないか……」



 その前に二人には釘を差しておかないといけないけどね。



 これ以上問題を起こしたらどうなるかわかっているよねと本気で脅しをかけておこうと帝人は小さく呟いてから、開いたまま机の上に置かれていた帳簿をそっと閉じた。
作品名:萬屋顛末記 其の壱 作家名:小島泉