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バンドエイド

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セックスは気持ち良いものだと信じ込んでいた。

それは生まれてから今までに目にしたテレビや本等での知識に過ぎないけれども、その殆どがセックスに関して死ぬほど痛い行為とは描かれていなかった所為である。
疑いもなく信じ込んでいた自分もアレだが、ここまで痛いのであれば快楽記事の1割でもいいから、セックス時に訪れる痛みについて言及してくれてもいいんじゃないかと思う。
ズウンと重量を持ったような痛みと、動いた時に身体に響くような痛みの両方を兼ね備えたボロボロの腰を擦りながら一人考えていると、真横から「んー」というのんきな寝言が聞こえて来た。
そりゃあお前は突っ込むだけだからまだええよな!そうブツブツ呟きながら光の頬を軽くつねると「むにゃ」と言う声に変わる。
…ちょっと可愛らしいと思ってしまった自分が憎たらしい。

しかしながらここまで痛かったのなら、あの時恥を忍んででもホモ本を買えばよかったと今更悔やんでしまう。
今まで得ていた知識が男女交際を基盤とした男向け性雑誌であったのがまずいけなかった。
そもそも光と付き合うまでは小春に対して一方的な好意を抱いていたとは言え、こんな風に付き合いたいと思ったことは当然なかった。
たぶん一般的にはノンケだったのだろう。

光に告白されて、毎日のようにアタックされ、いつの間にか光に対して好意というものが芽生えて―…って回想するのも何だか阿呆らしくなってくる。というか恥ずかしくてたまらない。

今日、この日を迎えたことを別に後悔しているわけではなかった。
付き合うようになってから3ヶ月―…正直だいぶ遠回りしたと思っているし、白石曰く『あの光がそこまでヤらへんのは珍しい』らしい。
何で白石がそんな情報を知っているのか問い質したかった気持ちもあるが、正直光に抱かれるまで不安もあったのだ。
ひょっとしたら俺のことは遊びだった、とか、本気じゃない、とか…冷めてしまったとか。
だから今日が訪れてくれて、心の底から嬉しく思っている。

だが、ここまで痛いだなんて聞いてなかったというわけで。
女のアソコは挿れる場所ではあるが、男のケツはそもそも出口であって入り口ではないという事なのだろう。ちょっと悲しいけれど。

「やっぱ俺が下に回ったんがいけなかったんやな…何が『下の方が楽ですよ』やねん!ごっつキツいわ!」
「…んー…」
「のんきな寝声が今は憎たらしくてたまらんわ…。あーあかん、腰いたあ…」

ベッドから恐る恐る這いずりだして、痛みの塊となっていた腰を擦る。若干、尻も痛い。
つか腰から尻の広い範囲で痛み警報発令中である。
光の部屋のひんやりとしたフローリングに横になりながら、「はぁ」と息を吐いて天井を見つめた。
そういえばさっき、あまりの痛みに天井の染み数えてたんだっけ。 光の部屋は結構綺麗な方だけれども、家自体がそもそも古いせいで多少汚れてしまっているんだよなあ。
とは言いながらも、新築のマンション住まいの俺にとって、この独特の古臭さが中々ツボをついているから言うつもりはない。

「ユウ…ジさん?」
「…ん?」
「なにしてはるんですか、そんな床で」

のそのそとベッドから上半身を起こして、光が目を擦りながら俺の方を見つめていた。
頬をつねっても耳元で怒鳴っても起きなかったというのに、離れた瞬間目覚めるなんて何て目ざといヤツなのだろう。…嬉しいだなんて言わないが。
光はゆっくりとした行動ながらもベッドから降りて、フローリングに寝転がっている俺の横にチョコンと座った。

「…別に」
「なら上で寝ましょうよ。そこで寝とったら腰痛くしますわ」
「もう十分痛いけどな!」

光の言葉に思わず反応してしまった口を押さえたけれどもうとき既に遅く。
眠気眼だった光の目は何時の間にか大きく見開かれていて、どことなくその色は困った色に染まっていた。
痛かったのは事実だし、のんきに眠っていた光にちょっと怒っていたのも確かだけれど、困らせるつもりなんて全然なくて。
こんな特別な日にそんな恋人の顔を見たい人なんて、いない。

オロオロしていた俺の顔を見遣りながら、光は俺の瞳をまっすぐ見ながら口を開いた。

「痛かったんですか?」
「いや、別に、大したことあらへんし」
「なら自分で起き上がってください」

光のその言葉は優しそうな声色なのに、否定する事なんて一切出来ないような力を持っている。
その声に泣きそうになる瞳を俺は何とか堪えながら、立ち上がろうと身体に力を入れるけれども、その行動ひとつひとつが全て腰の痛みに繋がりどうにも上手く 起き上がることは出来そうも無かった。腕の力を使って上半身を少しだけ浮き上がらせる事には成功したものの、急に身体を走りぬける痛みに思わず力を抜いて しまい、失敗に終わる。

あかん、光に心配なんて掛けるつもりないのに。

「ほら、痛いって言えばええのに」
「…言わへん」
「なんでですの?」
「…」

そんな光の言葉に俺は声を詰まらせる。
だんまりと静かになってしまった俺の顔を見ながら、光はハァと溜息を一つ吐いた。
嫌われてしまった―…そう思って瞼をギュッと閉じた瞬間、頬に小さな感触が当たる。
それが光の唇だと気付くのにはそう時間はかからなかった。

「ユウジ、ちゃんと好きやから」
「…!」
「どうせ『痛いとか言ったら鬱陶しがられる』とか思っとるんとちゃいます?」

光の言葉に思わず肩をビクつかせると、光は再び大きな溜息を吐き出してわざとらしく頬に手を当てながら眉をヘの字に寄せた。

「俺、まだまだユウジさんに信用されてへんなあ」
「ちゃ、ちゃう!そういうことやなくてってイッタァアア!」
「やっぱ痛いんや」

思わず身体を起こしかけて、そのまま力尽きた俺を見ながら光はハハッと声を上げて笑った。
なんだちくしょう、騙されたわけなのか。これは。
いまだ笑いっぱなしの光の目をキッと睨みつけると、「すんません」と謝る気ゼロとしか思えないような愉快な口調で返される。
そして光は俺の腰の下に手を当てて、そのままもう片方の腕を俺の膝裏に持ってきたと思いきや、思い切りガッと宙に持ち上げた。
俗に言うお姫様抱っこという体勢に、「アホ!」と声を上げても、光は満足そうに微笑むだけで。

「ベッドに戻りますよ。一人や無理やろ?」
「う…ス、スマン…」
「痛いのここら辺スか?ユウジさんが寝るまで擦ってあげますから、一緒に寝ましょ?」

光は俺をベッドの上に降ろした後、自分もその横にスプリングをギシッと言わせながら入り込んでくる。向き合う ような体勢になった俺の鼻に小さくキスを落としながら、俺の腰を優しく擦り上げてきた。その優しい手つきに、先程まで痛みで開ききっていた瞼がトロンと眠 気に包まれてくる。

「ひかる」
「なん?」
「好き」
「…ん、」

『俺もですよ』と耳元で優しく静かに響いたのを感じながら、俺は意識を手放した。
作品名:バンドエイド 作家名:みやこ