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ふたりぼっち

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「なあ、光。俺のこと好き?」

ユウジさんの唐突でなおかつ日常的な質問に、俺は読んでいた雑誌から緩々と目を移す。
視線の先には不安そうに眉を顰めて自分を見つめているユウジさんがいた。
先程まで俺が何度話しかけてもテレビの中のお笑い芸人に夢中だったくせに、俺が一瞬でも黙り込むと不機嫌そうに唇を尖らせる。

それでも俺はそんな先輩の身勝手な愛が、嫌いじゃない。

「何スか?いきなり」

俺は敢えて問いかけに対して疑問系で返してみる。
直ぐに「好き」だと返してもいいのだけれど、俺からの僅かばかりの仕返しだ。
先輩は俺の言葉に、「別に」と短く言葉を紡ぐ。不機嫌、というよりはどことなく不安を滲ませたその声色に、思わず目を丸くさせると、彼の肩の向こうのテレビ画面がザワザワと動き出した。
何時の間にか先輩が大好きなお笑い番組は放送を終え、その画面に映るのは男女の恋愛ドラマになっている。

(なるほどな)

まったくもって興味がなかったせいか、今現在シクシクと涙を流しているヒロインの女優も、その女優の涙を拭う俳優の名前も俺は知らない。
ただ容姿が整っているところから見てお笑い芸人でない事は確かだ。となると、先輩もこの俳優達の名前も知らないはず。
そもそも恋愛ドラマというジャンルからして俺たちの興味対象からはずれてるはずだ。こんなものを好んでみる知り合いなんて小春先輩位しか知らない。
まああの人はドラマを楽しむというより、俳優を見て楽しんでいるんだろうけれど。

「光」

ずれかけた思考が、自分の名を呼ぶ先輩の声で引き戻される。
そうだった。今は小春先輩のことなんか考えている状況じゃなかった。
ユウジさんの瞳はキラキラと室内灯に照らされて宝石のように輝いている。上目遣いに、俺をまっすぐ見つめる大きな瞳。
普段は猫のように鋭い瞳をしているくせに、こうやって愛されたいがための可愛い仕草やおねだりが先輩は得意だ。
こういう状況でも…深く愛し合う時も。

「俺らもあのテレビの中の奴らみたいに、手ぇ繋いでデートしたい」
「無理、やろ。夜なら…出来るかも知れませんけど」
「知っとるよ、知っとる。…知っとる」

何度も何度もそう呟いて、先輩は顔を俯かせていく。

別に誰かに見せ付けたいわけじゃないのだろう。そして俺もユウジさんも誰かに認められたいわけじゃない。
男は男を愛してはいけない理由なんて分かりたくもないし、俺はユウジさんが好きで、ユウジさんが俺を好きならそれでいいじゃないか。
だけれど、その感情は一般的に「認めてもらえない」。
悪意もなく、ただ普通じゃないからという根拠もない…だけれども絶対的なその『否定』は俺たちの心を少しずつ蝕んでいた。

「ユウジさん」
「…なん?」

外から見えないように完全に閉じられたカーテン、音楽が好きだからと防音仕様にしてもらった壁の中、先輩にしか聞こえない声で「好き」と俺は呟く。
先輩は少し驚いたように目を大きくした後、涙をぽろり一筋流しながら「俺もや」と口にした。
世界から完全に遮断されたこの場所で、俺たちは愛を叫ぶ。

俺たちの世界はふたりぼっちだ。
作品名:ふたりぼっち 作家名:みやこ