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今夜八時、僕の部屋で

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財前光は、俺の一つ年下で同じテニス部に所属する後輩だ。
少々小生意気な所があるが、『天才』という名に負けず劣らずテニスは上手いし、勉強も古典以外はそれなりの成績を収めているらしい。その証拠に俺や謙也のように定期考査の後の追試を受けている姿は見たことが無かった。
容姿は憎憎しい限りだが小春がベタ褒めする位に整っているし、去年のバレンタインは1年生の癖に先輩に呼び出され、告白されていた姿を目撃した事がある。
…関係ないがあの時の謙也の荒れようといったら無かった。モテない男の僻みは…なんて財前が嫌味言うからいけないんだけれど。

しかし財前光がその数多ある告白を受けた事は今まで、一度としてない。
なぜならば…。

「ユウジ先輩、手ェ寒くないですか?」

どうやら財前は俺のことが好きらしい。
自意識過剰と2年生の間はなるべくそう思わないようにして来たのだけれど、さすがに毎朝家の前に立たれたり、休日出掛ける度に顔を合わせたり、半分ストーカーに片足突っ込むような行動されれば誰だって気付く。

「…やっぱ俺並に冷たくなっとるやないですか」
「冬やし、しゃーないやん」
「あきません」

財前はそう言って俺の腕を取り、ジャージからはみ出た指先にハァと息を吐き掛けた。
その突然の温もりに思わず手を引っ込ませると、財前は悲しそうに眉をハの時に歪める。
そ、そんな顔したってダメなんやからな!

「先輩、今日掃除当番やったでしょ?それも雑巾当番…水冷たかったやろ」
「何でしっと…!…って、お前には愚問やったな…」
「?何か俺、変なこと言いました?」

財前はそう言って頭をコテンという擬音がまさにピッタリ当てはまるように横に傾ける。
そんな後輩という立場を思いっきり大活用した可愛い仕草に思わず気を取られかけるが、言ってる事は少し薄ら寒さを覚えるようなものだ。

彼、財前光にとって俺の係当番の把握なんて当たり前。クラスの移動時間の把握なんてお手の物らしいし、小春が生徒会や欠席なんかで俺が気まぐれな場所で一人取っている昼食の場も当てることが出来る、いわゆる「一氏ユウジマニア」なのだ。
…自分で言うと妙に気恥ずかしい。
ちなみに彼に言わせると『ユウジ先輩は甘い匂いがするし、キラキラしとるからから直ぐに分かる』らしい。俺にとって小春の居場所を比較的(あくまで比較 的、だ)当てるのが上手いのと同じことだと思うんだけど、その事を財前に言ったら一度酷く悲しまれたので言わない事にしている。
別に俺が財前に配慮しなければいけない理由なんてない(むしろ少しくらい怒っていい)はずなのだが、何となく…嫌なのだ。

「…先輩、なに考えとるん?」
「ん?お前のこと」
「そっか…。おおきに、ごっつ嬉しい」

そう言って財前はニコニコ笑う。
その素直さをもう少し普段の態度や、あと相方の小春、そして財前の相方である謙也に向けてやればこの四天宝寺中も平和になると思うんだけれど。

「俺は四六時中…下手したらテニス中も先輩の事想っとるよ」
「テニス中はテニスに集中せなあかん。相手に失礼やろ」
「やって先輩の事考えると、俺強うなれるもん」
「そっか…。まあ時々ならええけど」

そう言って俺が部室に向かって歩き出すと、財前も少しだけ間を置いて俺の後ろをトコトコと付いて歩き出した。いつも俺の横には大抵小春がいるから、財前の定位置は大抵俺の少し後ろになる。
だから小春が生徒会でいないはずなのに、今日もその癖が出てしまっているのだろう。
アホやな、ほんと。

「…はぁ、光」
「…!」

溜息を吐いて立ち止まると財前も同じように立ち止まった。
振り返って彼の顔を見れば、少し不安そうな顔をして立っていて。
ホンマに、アホやなぁ。

「俺の横、空いとるんやけど」
「…ええの?だってそこは小春先輩の特等席やって先輩が前言うて…」
「後ろからストーカーされるよりはマシや。それとも嫌な…」

「ん?」という言葉を言い切る前に、財前は「嫌やない!」と叫んで俺の横へと小走りに走ってきた。普段は豹のような奴なのに、こんな時だけ…俺と二人きりの時だけ犬のように俺にまっしぐらに来るそんな財前が、俺は嫌ではない。
ペットは飼い主に似るというけれど、逆もまた然りなのである。俺の事が大好きで、大好きで、俺のクラスの事もプライベートの事でさえも、全部知り尽くしているのに、そんな所で勇気が出ない天才さんに俺も毒され始めてるっていう話。

「これに免じて、俺の部屋の盗聴器外せや」
「…えー…」
「俺だけ聞かれるなんてずるいやろ」
「なら俺の部屋にも盗聴器つけます?」
「アホかいらんわ…それより、指が冷たくてかなわんわー」

そう俺が言うと財前は少しだけ目を大きくさせて、「しゃーないっすね」とふんわり微笑みながら俺の指に自分の指を絡めた。
『こういう事やしもうストーカーなんてせんでもええよ』って言う言葉には相変わらず首を傾げてたけど。
…ちょっと天才くん、鈍すぎるんとちゃう?

「やっぱ盗聴器はずさんでええわ」
「?」

今日の夜8時、部屋での俺の声ちゃんと聞いとけ!…そう言った俺の言葉に財前は不思議そうな顔をしたままだけれど、曖昧に頷いた。

財前、今夜八時。
俺は俺の部屋でお前に愛を叫ぶから覚悟しておけ。
その後は勿論、外させてもらうけれどな。

(もうそんな事せんでもいいんやで、臆病な天才くん)
作品名:今夜八時、僕の部屋で 作家名:みやこ