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ぎとぎとチキン
ぎとぎとチキン
novelistID. 6868
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平和島静雄の溜息

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平和島静雄は西口公園で、深い深い溜息を吐いた。
どうしてこうなった。

全てはあの蚤蟲の所為である。
静雄がこうして溜息を吐いているのも、缶コーヒーが苦いのも、平和を愛しているというのにそれとは程遠い日常を過ごしているのも、きっと梅雨だって温暖化だって地球が青いのだって蚤蟲の所為に違いない。
後半は明らかに八つ当たりだったが、とりあえず蚤蟲が悪い。主に存在と普段の行いが。
ああ、あいつ早く消えてくんねぇかな。
思わず呟きつつ、静雄はつい先刻の事を思い出していた。

うだうだと戯れ言を宣う蚤蟲に、それ明らかに恋してんだろ、と思いながらも相手の名前を聞いた。
そうしたら我が意を得たりとばかりに、蚤蟲がまたペラペラ語り出す。

「相手が誰かって?そんなの決まってる!竜ヶ峰帝人君だよ!来良に通ってるんだけどね、ああ確か首無しとも仲良かったかな。細くて小さくて可愛いおでこが丸見えでなんていうのかな舐めたい額?うんそんな感じなんだけどだからって舐めたら駄目だよ?殺すよ?ああそれに中学生にしか見えない幼顔でほっぺもスベスベぷにぷになんだよね、この前引っ張ってみたらふにょって…ちなみに叩かれました本当ツンデレ?ツンデレって言うのこれ?俺ツンデレってウザいって思ってたんだけどいいね!前言撤回まあ言ってた訳じゃないけどね!あ、でも誰でも良いって訳じゃないから彼だけだからここ重要。つまり、」

それ以降奴が何を言おうとしたかは知らない。
我慢に我慢を重ねたものの耐えきれず奴の乗っていた自販機を蹴飛ばしたからだ。すんません、トムさん。
自販機ごとすっ飛んだ蚤蟲は酷いだか横暴だか言っていたが、それから後はいつもの戦争。
まあ一応壊れかけの自販機と標識は元の場所に戻したので、大目に…見てくれるといいけれど本当すんませんトムさん。
そんな訳で戦争が終わりあらかた片付けてトムさんに報告したら、ちょっと涙目だった。
ああ本当なんであいつ消えねえんだろ。
今日はもう帰っていいというので、こうして西口公園に居るのだが、さてどうしようか。
静雄は臨也の話を基本的に聞く気が無いので、臨也が好き(だと思われる)な人物について覚えているのは、来良に通っている事と、セルティと仲が良いという事だけだ。
なのでここは手っ取り早くセルティに該当する人物を聞こう、と先刻メールした。
そして今はその待ち時間ではあるのだが。
実は、つい今しがた雨が降り出したのだ。
勿論、基本的に持ち物を余り持たない(壊すもしくはキレてる間に落とすので)静雄が傘など持っている訳もなく、だからといって待ち合わせ場所であるこの場所を離れる訳には行かないので、静雄は今絶賛濡れ鼠中だ。
しかもよりによって大雨、ところにより雷。
どうしてこうなった。
雨が溜まってもう飲めたものじゃない缶コーヒーを眺めながら、ぼんやりと溜息を吐く。
別にずぶ濡れになったって丈夫な静雄は風邪など引かないが、だからと言って進んで濡れたい訳ではない。
ああ本当あいつマジ消えてくれ。
暫くそのまま待っていると、遠くから嘶きが聞こえてきて、雨だと言うのにセルティが来てくれた。
セルティはずぶ濡れの静雄を見て、オタオタと慌てて、それから影で傘を作り出し静雄に差しかけた。
本当に良い奴だ。
セルティはそれから静雄を屋根のある所まで引っ張って行って、どうしたんだと聞いてきた。

「あー…なんつーか…、ああ面倒くせぇな、あの蚤蟲に好きな奴が出来たみたいなんだよ。」
『なんだって?!なんて不幸なんだ相手が可哀想だ!』
「だろ?んで、どうやらその相手っつーのが、セルティと仲が良い奴みたいで…。」
『誰なんだ?!守ってやらなきゃ!』
「悪ぃ、名前も聞いたんだけどよ、あんまり気持ち悪ぃことぐだぐだ話すもんだから、キレて忘れちまった。来良に通ってるって事は覚えてるんだけどさ。」

即座に同情が返って来るのが、あの蚤蟲の悪質さを現している。
どうやら守ってやらなきゃならないと思うのは、自分だけではないらしいと静雄はホッと息を吐いた。

「心当たり、ないか?」
『…もしかして、』

その後表示された名前を頭に叩き込んで、静雄は濡れた前髪を掻き上げた。
その名前は、

園原杏里。


end