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渇望と呼ぶには尊すぎた

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朝、目が覚めて、ふと、思い浮かぶ。


携帯電話を見て、ふと、思い浮かぶ。


友達と街を歩いていて、ふと、思い浮かぶ。


「今、何してるんだろ・・・」

ポツリともれた言葉に正臣が振り返った。
「なになに?何か言ったー?」
手にはあと僅かなソフトクリーム。
「別に。正臣のギャクの寒さはどこから来てるのか考えてただけ」
僕は正臣よりも多く残っているソフトクリームを舐めながら答えた。
「なにぃ!?俺のギャグの何処が寒いんだ!ホットかつスパイシーな思わず誰もが口にしたくなるようなギャグに向かって失礼な!!」
アイス部分をほとんど食べてしまい、コーンだけになったものをマイク代わりに、大仰な動作で怒りを表しているようだ。
あれ?嘆き、かな?
どちらにしても。
「意味わかんないよ。それに五月蠅い。」
僕は溜息すら吐かず、おかしなポーズで止まっている正臣のを追い越した。
ソフトクリームは少し溶けかかっている。
「帝人が聞いたから答えてやったのにぃ~」
「残念なぐらい答えになってないよ。頑張ろうね、日本語。」
そう言いつつ振り返れると、正臣越しに見知った人影が見えた。

「あ」

思わず、声が出て。
僕が声を出すのと、彼が振り返るのはほとんど同時だった。

「あ?ってどした?」
僕が正臣よりも後ろ側を見ていることに気がづいて、正臣が僕を見てから振り返る。
「げっ」
誰が居たかはもうわかったみたいで、彼に聞こえない程度の小さな、本当にごく小さな声で悪態を吐いた。
僕には聞こえたのだけど。
正臣はさっと顔を僕のほうに戻して、苦虫を噛み潰したような表情を作った。
彼は正臣の態度など意に介さず、(いや、もしかしたら見えていないのかもしれない)とてもいい笑顔でコチラに歩いてくる。
正臣の後ろまで来て、綺麗な笑顔で笑った。
「やぁ、帝人君。奇遇だね?」
「こんにちは、臨也さん。池袋にいていいんですか?」
静雄さんに見つかれば、只ではすまないはずなのに、彼はよく池袋に来ている。
僕の言いたいことなど百も承知と言わんばかりに、苦笑して肩を竦めた。
「俺も生きていくためと趣味のための仕事があるからね。新宿だけに篭ってるわけにもいかなし」
「それもそうですね」
彼の仕事は情報屋。
今はWeb があるから走り回ることもないかもしれないが、情報と言うのはやはり人のほうが早い。
古来より「人の口に戸は立てられぬ」とはよく言ったもので、どんな情報も人が扱うものなのだから、どこからか漏れるものだ。
僕は納得して頷くと、彼は嬉しそうに笑った。
(可愛い笑顔)
7つも年上の男の人に思う言葉ではないかもしれないけど、僕はよく臨也さんにそんな感想を持つ。
自分の欲望に貪欲で、素直で、まるで子供みたいに笑う。
もちろん彼は大人で、善い人間とはいい言いづらいのだが。
僕も笑い返していたら、真ん中でしゃがんでいた正臣が突然立ち上がった。
僕に背を向けている。
「こんにちは、臨也さん」
ぎこちない声が聞こえた。きっと同じようにぎこちない笑顔を浮かべているんだろう。
「あれ、紀田君いたんだ?」
さも今気づいたかのような驚いた声に僕は苦笑してしまった。
「いや、俺挟んでたんだから気づきますよね、普通。」
「ごめんねー?俺、帝人君しか見えてなかった。てか、今から帝人君とお茶するから帰ってくんない?」
突然出された提案に僕は目を瞬かせた。
「は?何言ってんスか。帝人は俺と今から放課後デートなんです。」
正臣から苛々とした声が聞こえてくる。
「いや、放課後デートの約束した覚えないから」
ただ、帰りがてらブラリとしただけで別に約束をしてたわけじゃない。
そう突っ込むと振り向きざまに恨めしそうに睨まれた。
(何で)
困り顔で首を傾げれば、そのやり取りを見ていた臨也さんが声を上げて笑った。
「あははは!紀田君振られたね!君いつも学校で帝人君のこと独り占めしてるんだろ?たまには譲りなよ。」
「イヤです」
きっぱりと言い切る正臣にまたまた困ってしまう。
臨也さんの目が眇められるのを見て、それに少したじろぐ正臣を見て、正臣の袖を引っ張った。
「なんだ?」
すぐに振り返ってくれた正臣に苦笑を浮かべながら言う。
「ごめん、正臣。今日は臨也さんとお茶に行くよ。また明日ね?」
「なっ!お前何言ってんだよ!」
大きな目を更に大きく開いて、慌てたように声を上げる。
まぁ、予想していたけどちょっと可哀想な気がする。
正臣は僕を臨也さんに近づけたくないみたいだから。
でも。
「紀田君。振られたんだから大人しく引き下がりなよ。男が廃るよ?」
クスクスと笑いながら小馬鹿にした物言いに、正臣が食って掛かろうとする。
そんな正臣の腕を押さえて、「明日も会えるんだから」と言い無理矢理納得させる。
正臣は僕と離れるのがイヤなんじゃなくて、僕が臨也さんと一緒にいるのがイヤなんだ。
わかってるけど、仕方ない。
僕は。
「じゃぁ、行こうか。帝人君」
少し、勝ち誇ったような無邪気な笑顔に、同じく笑顔で返す。
「はい」
当たり前のように差し出された手を取ったのは、自然なことだった。
正臣は、すでに僕らに背を向けて歩き出していた。

歩きながら、溶けかけたアイスクリームを零れないように舐め取る。
それを見ていた臨也さんが、アイスクリームを持つ手を取って少し残っているアイスクリームにかぶりついた。
「甘いね」
アイスクリームですから、と答えれば、それもそうか、と帰ってきた。
僕は僅かにコーンについているアイスと、コーンを食べきって手を引かれるままに着いて行く。

臨也さん。と声を掛ければ歩きながらも振り返る。
その笑顔はやはり無邪気で、可愛いなぁと思う。

「僕、最近ふと臨也さんのこと考えるんです」

「そうなだ?」

「朝起きたときとか、学校に居るときとか、友達と遊んでるときとか」

「ふーん?」

「何でなんでしょう?」

「何でなんだろうね」

そう言った臨也さんの顔はすでに前に向いていて、だけど握られた手に力が篭ったのがわかった。

目の前の信号が赤に変わって、人ごみに埋もれながら青になるのを待つ。
信号を見たままの臨也さんが今日の天気を言うみたいに話しかけてきた。

「帝人君」

「はい」

「俺はいつも帝人君のこと考えてるよ。だから君も、ふとじゃなくていつも俺のこと考えるべきじゃない?」

見上げた横顔は先ほどと変わらず前を見たまま。

だから僕も前を見たまま答える。

「そうですね」

信号は青いになり、僕はまた手を引かれて歩いていく。



行き先は解らない



ただ、彼のことを考えながら歩いていく
作品名:渇望と呼ぶには尊すぎた 作家名:waya