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cielo azul

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日差しの眩しさにもぞもぞと布団の中から顔を出したこどもは、暫くぼんやりと中空の辺りへ視線を漂わせていた。

 ここは、どこだっけ。みなれない………あぁ、そうだ。

「おれの家じゃないんだった」

 霞みかかったような思考でひとつの答えにたどり着き、ロマーノはぽふっと枕に突っ伏した。眠気が振り払えず、枕に顔に顔を押し付けたままうだうだしていると、不意にドアがノックされる音が響いてきた。
 ドンドンと叩かれる音は丁寧とはいいがたい。いささか乱暴に聞こえるその音に、ロマーノは思わず首を竦めて掛布の中へ身を隠した。

「ロマーノ、起きたか?朝やでー」

 ガチャリとドアノブが捻られ、未だに聞き慣れない言葉と一緒に名を呼ばれる。

「ロマ?おはよーさん。起きてる?」
「……おぅ」
「ほな、朝飯食おう。食ったら、畑でトマト収穫や!」

 快活な笑顔がひょこりと掛布に潜り込んでいたロマーノの目前に突然現れ、驚きつつも、おう、ともう一度返事をした。小さくても返事が聞こえたことに満足したのかスペインは笑顔を深めた。

 自称親分ことスペインが最初にロマーノへ取り付けた約束。それが「返事をすること」だった。無論、それをロマーノが素直に受け容れるはずもなく、はじめは反抗して返事をしていなかったのだが、返事!としつこく繰り返されるスペインの台詞にロマーノが降参して返事をするようになったのだ。
 それでこそ子分やでっ。と、嬉しそうにわしゃわしゃと頭を撫でられたのがなんとなく照れくさくてロマーノはスペインの鳩尾へ頭突きをお見舞いしたのだが、以降は妥協ではなく素直に返事をするようになっていた。
 
 ひょっこりと出てきたロマーノに満足したのか、スペインは踵を返すと「朝飯の準備できてるから早くなー」「…おう」先に部屋を出て行った。
 ロマーノはちょんとベッドから降りると、もそもそと服を着る。靴をつっかけ、パタパタと小走りでスペインがいるであろう部屋に向かう。
 扉を開けた先ではスペインが椅子に座り、朝食の準備を終えたところだった。

「お、来よったな。ほな、食べよか」

 手招きされて、ロマーノはスペインの向かいの椅子に座る。ロマーノが腰を落ち着けたのを見計らい、スペインがフォークを手にして笑った。



「よし、飯も食ったし、畑行くでー。ロマ、麦藁帽子は?」
「ある」

 左手を腰に手を当てて、右手では拳を握りこみ無駄に意気込むスペインの脇でロマーノは冷静な調子で首にゴムを通してひっかけてある麦藁帽子を指で示した。日差し強いから、ちゃんと被るんやで、と念を押されロマーノがひとつ頷く。
 ふたりの間で必ず交わされるやりとり。これがスペインとロマーノの普段の日常だった。

「今日はトマトの実りがええなあ…親分嬉しいわあ」
「…うめえ」
「て、ロマー!もう食ってるん?!つまみ食いはあかんいうたやろっ」
「だったらお前も、くえばイイだろ」

 もっしゃもっしゃと熟れた赤い実を食べながら、ロマーノはさも当然というように答える。スペインは眉根を寄せた。

「ロマは食い意地はっとるなあ」
「トマトがうまいのがいけないんだぞ、コノヤロー」
「……トマト、美味しい?」
「おぅ」
「そか。なら、ええわ」

 問い掛けに素直に頷いたロマーノにスペインは途端にパッと顔を輝かせて喜ぶ。これではどちらが大人なのか分かりやしない。
 ロマーノはトマトを齧りながらふと空を見上げた。
 青いあおい、広大な空。翳りを知らなそうな、濃い青色にポツリと、

「スペインみたいだ」



「うん?ロマ、なんかいった?」
「…別に」

 なにもかも包容してしまいそうな、眩しい笑顔を見せるスペイン。この地球を包み込むように広がる大空。どこか、似ている気がして。
 ぷいっと顔をそらしてロマーノは覗き込んできたスペインの脛を蹴りつけながら、トマトを齧り続けた。





 …スペインの笑顔が好きだなんて、いえるわけがない。


作品名:cielo azul 作家名:アキ