有効活用【女体化臨也さん】
にっこりと笑った顔のまま、臨也は新羅にナイフを向けた。
もしここにセルティがいればこんなことにはならなかったかもしれないが、今ここに彼女はいない。
「本当に何を間違えたら性別を一時的に変える薬とサプリメントを間違えるんだか。」
「・・・君だっていつも飲んでるくせに気付かずにそのまま飲んだじゃないか。」
「君は医者で俺は素人。そこの違いを理解してもらわないと困るなぁ。それよりこれがいつ治るのか聞いてもいい?」
「もって2日だと思う。」
「解毒薬は?」
「無い。」
うん、今ほど新羅に窓から飛び降りて欲しいと思ったことは無いよ。と笑顔で新羅に言ったが、さして気にした様子も無く・・・ただ女体となった臨也の身体をしげしげと眺めるばかりだった。
「何か気持ち悪いね。」
身体のラインとか顔とかそういうのは正直普通の女性よりずっと綺麗なんだけど、これが元男の臨也だと思うと変な感じがするよ。などと言ってくる新羅の頭にチョップを食らわせると、臨也は立ち上がってドアノブに手をかけた。
「あ、待って!」
「何?」
呼び止められて振り向くと、新羅が今度こそ気まずそうな顔で臨也を見ていた。
「もうすぐここに静雄が来るんだけど、下で鉢合わせちゃうかも。」
「へー、シズちゃんが来るんだー。」
ここに来て初めて臨也はこの身体になって面白いと感じた。
「何か他に服無いの?」
「え?あることはあるけど、着替えるのかい?」
臨也は頷くと新羅に服を引っ張り出させ、手早く着替えた。
これなら服を引きずらなくてすむ。
まぁ、ナース服なのはいかがなものかと思ったが・・・。
そもそも何でこんなものを持っているんだ。
「新羅、」
しばらくすると、静雄がガチャッとドアを開けて入ってきた。
「いらっしゃい。」
「ノミ蟲の気配がする。」
「あはは・・・さすがにするどいなぁ。」
「まだここにいるだろ。」
「いやー、居るって言えば居るんだけど・・・。」
青筋を浮かべながら静雄はカーテンを睨み付けた。
「いーざーやー、そこにいるのは・・・わかってんだぞ!」
近くにあったイスを持ち上げてカーテンの方に投げつける・・・と、いつものアルトが室内に響くはずだった。
が、小さな悲鳴はソプラノで上がった。
「うっひゃぁ!」
「はぁ?」
思わず新羅を見ると、やれやれ困ったものだね。という顔をしていた。
「臨也、出てきなよ。このままじゃ家が破壊されちゃいそうなんだけど。」
その声に反応してか、破れてしまったカーテンの向こうから臨也より少し背の低い女が出てきた。
「いきなりイス投げるなんて酷いんじゃない?」
臨也に・・・胸があった。
思わず静雄は自分の顔をたたく。
「え、シズちゃん何してるの?もしかして夢だとか思った?本当に夢だったらよかったんだけど、新羅が間違えて性別かえる薬くれちゃってさ、それを飲んだ俺はみごと女体になっちゃったってわけ。だから夢じゃないよ。シズちゃんが見てるこの俺は現実だから・・・・・・大丈夫じゃないけど・・・目は大丈夫だよ。俺が保障してあげる。」
心なしがげんなりとした顔でナース服の臨也はペラペラと喋った。
喋りながら臨也は静雄に近付き、ほら本物だよ。と言いながら静雄の手を自分の胸に押し当てた。
「「「・・・。」」」
パアン!!
そんな効果音が似合いそうな勢いで静雄は顔を真っ赤にし、勢いよく臨也の胸から手をどけた。
「・・・新羅ぁあああああああああ!!!!!!!」
静雄は真っ赤な顔のまま新羅を睨み付ける。
「あらやだ、シズちゃん純情!」
臨也はそんな静雄の様子を見て、思わず口に手をあててキラキラとした目を向ける。
「さすが童t・・・グヘッ」
新羅が何か口走りかけたのを静雄は素早い手つきでイスをつかみ、投げつけること防いだ。
しかし、その言葉はしっかりと臨也に届いたようで、益々キラキラとした目を静雄に向ける。
「ねぇ、シズちゃん・・・まだ経験無いんだったら・・・俺が相手するよ?色々教えてあげるし・・・ねぇ、どう?」
すっかり伸びてしまった新羅を放置して臨也は静雄に詰め寄った。
「いや、何言ってんだ手前・・・手前は忘れてるかもしれないがな、折原臨也は男だ。そこを忘れるなよ。今どんなに身体が女でもそこを忘れちゃいけねえだろ。」
「否だなシズちゃん、ちゃんと覚えてるよ。俺は男で、この身体は薬で変わってるだけってこと。」
だけど、この状態を有効活用しないのは損だと思わない?本来なら絶対に契ることが無い俺たちがこういうことするのって、何だか背徳的でいいじゃない?たまには殺し合いじゃない方法で喧嘩しよう。
「なんでセックス=喧嘩みたいなことになってんだ手前は。」
「似たようなもんじゃない。」
「全然ちげえよ馬鹿。」
「シズちゃん・・・もう黙ってよ。」
臨也は襟を思いっ切り引っ張って、自分の唇を相手のそれと重ね合わせた。
作品名:有効活用【女体化臨也さん】 作家名:谷尋悠