ひとりごと
世間一般での評判と内情が違うなんてことは良くある話でしかない。
それは芸能人だろうとただの一般市民であろうと、きっと変わらないのだ。
別段、騙しているだとか演じているだとかそういうものでもない。ただ、求められるままに応えようとするそれは一種の反射神経のようなものでしかないだろう。
いいひとになりたいのだろうか。それとも、大人になりたいのだろうか。
そう問いかけたところで答えなどあるわけもなく、ただまるで条件反射のように門田の意思よりも早いところで指先が動いているだけの話だった。
世話を焼くのも嫌いじゃないし、頼られるのも悪くない。そうは言ってもそんな立派な人間でもなんでもないのだ。
懐くように伸ばされる体温も甘かすように触れる言葉も手放すのを惜しんで、余計に見ないふりをするのが得意なだけの卑怯者なのだ。
けれど特有の強引さで、あの子供が飛び込んでくる駆け足には躊躇いひとつ含まれていない。
お前が見ているのは俺じゃないだなんて、思ってみたところで口に出せるわけもない。
ふわふわと甘い匂いが鼻先を擽って、伸ばされた腕はなにもかもを埋め尽くす。甘やかすように抱え込まれるそれはあまりに無防備な攻撃で、門田はいつでも少しだけ困ったように笑ったまま、すべてを投げだす以外の手段を持たない。
(そんなこと知ってるよ、と、唇をなぞる指先が息を浚った)