夜空に咲く花
空が茜色に染まる時間になって、正臣は突然そんなことを言い出した。
その言葉に驚くことなく沙樹は頷く。
「どこ行くの?」
「お台場」
「珍しいね、そこまで行くの」
「あんま行ったことないしな」
「そうだね」
そんなやり取りをしながら、正臣と沙樹は家を後にした。
お台場に着いた頃には、すっかり陽は落ちていた。
けれど暗闇に包まれることなく、店舗が光を放っている。
それを尻目に二人が足を運んだのは海だった。
「海?」
「そう、海。夜の海って来たことないだろ?」
「うん」
波の音しか聞こえない空間。
静かであり寂しさもある世界。
そんな世界の中で、沙樹は波打ち際まで足を進める。
サンダルを履いていることもあり、パシャパシャと足を海につけていた。
そんな沙樹の様子を見ながら、正臣は声をかけた。
「沙樹」
「なに?」
「これ、やんない?」
そう言って正臣が差し出したのは、コンビニで売られている花火だった。
「花火?」
「そ、花火」
「楽しそうだね」
「だろ?」
言いながら沙樹は正臣の元へと戻って来る。
内容を見ると、手持ち花火が数種と線香花火が入っていた。