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あまおと

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「明日晴れるといいなー」
偶然一緒になった道で、隣を歩く山本が言う。
梅雨という名の通りここ数日は雨続きで、今日もそれに漏れなくしとしとと朝から霧のような雨が降り続いていた。
青空の下を駆け回るのが似合う彼は、雨ばかりの日々に少し拗ね気味だ。大好きな野球ができないからだろうと、クロームにもすぐにわかる。
そんな彼の気持ちを知っているから少しだけ申し訳なさを感じて、少女はぎゅっと傘の柄を握って口を開いた。
「私は、雨でもいい」
「そーなのか?」
「雨の音、好きなの…落ち着く」
「ふうん」
山本はぱちりと瞬きをすると、傘の端からどんよりとした空を見上げて、またぱちりと瞬きをする。
そうして、しばしの沈黙。
ぱたぱたと雨粒が傘を叩く音だけが響いて、クロームはほうと小さく息を吐いた。規則的に不規則な音、弾むような軽い音はどこかほっとする。
月並みな言葉だけれど、子守唄のようで。
この音を聞きながら雨を眺めていると、心が安らぐのだ。
「へー。結構いい音するのなー」
そんなクロームの心を読んだかのように、山本が楽しそうな声を上げる。
彼女がぱっと見上げると、楽しそうな笑顔がこちらを見下ろしてひょいと傘を揺らせた。
「こんな音するなんて、知らなかった。クロームはすげーな」
「そ、そんなこと…」
「俺、雨の守護者なのに知らなかったから、ちょっと恥ずかしいのなー」
そう言って、ははっと笑う。
その笑顔は、やっぱり青空が似合う笑顔だと思ったけれど。
「…きっと、山本が雨の守護者だから」
「ん?」
「だから、気付かなかったんだと思う」
一緒にいると安心する、まるでやさしく包まれているように。
この、雨のように。
「えっと、よくわかんねーんだけど…」
「…ないしょ」
頭上に疑問符をたくさん浮かべて首をかしげる少年に、クロームは小さく小さく、笑う。
山本はまだ不思議そうではあったが
「クロームが笑ったからいいや」
そう言って、笑った。
揺れた二人分の傘に、また雨粒が落ちる。
作品名:あまおと 作家名:佐倉 慧